
日本は昔から女性職人が少なかったわけではない。中世まで、女性たちは幅広い専門職についていたと指摘するのは、ジェンダー史に詳しい国立歴史民俗博物館教授の横山百合子さんだ。 「ところが江戸時代に入ると状況が一変します。職人が助け合うため、あるいは利益を独占するために職人の仲間を作り、幕府もこれを保護するようになります。仲間の構成員は基本的に家の当主である男性に限られました。それにより、夫婦で営業している職業でも職人は夫で妻は手伝いという流れができた。近世以後女性が一人前の職業を持つことが認められないしくみが広がったのです」(横山さん) なかには女性を物理的にも排除する職業があった。その代表が酒造りだ。 「古代から行われている仕事ですが、江戸時代の社会のしくみから酒蔵に女性を立ち入らせないようになります。そして、女性には月経や出産による血の穢れがあるとか、髪につける鬢付油のにおいがお酒を悪くするなどの説が後付けで生まれたのです」(横山さん) そんな“迷信”に構わず、堂々と足を踏み入れた女性がいる。京都府亀岡市にある酒造会社「丹山酒造」5代目当主の長谷川渚さん(42才)だ。 「昔は女性がお酒を造っていたと聞いたことがあります」(長谷川さん・以下同) 明治15年創業の老舗酒造の次女として生まれた長谷川さんは、幼い頃から3才上の姉とともに家業を継ぐことを決めていた。 「酒造りに興味があったので、早い段階で姉と家業を継ぎたいと思っていました。本格的に進路を決める際、私は人と話すのが苦手だったので姉が営業を担当し、自分は職人になると決めました」 高校卒業後、滋賀県の研究所で酒蔵のしくみなどを学んで実家に戻り、杜氏の見習いとして仕事を始めた。 「昔から職人さんが10人くらい出稼ぎに来て半年ほど蔵で寝泊まりしながらお酒を造るのが定石でした。見習いを始めた頃は杜氏の皆さんは男性で、女性は私だけ。両親は私に隠れて『甘やかさないでください』とお願いしていたそうですが、皆さんとても親切で『女は入ったらアカン』ということは一切なかった。とはいえ、実際にやってみると楽ではなかったです」
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