中国One-Netbook Technologyの「OneGx1」は、オプションのゲームコントローラと組み合わせた「超小型PCだけどゲーミングPC」として、その存在価値を訴求しているモデルだ。本体の左右両脇にゲームコントローラを装着し、本体背面に飛び出した大型のクーラーユニットが青いLEDを輝かせている姿を見ると、なるほどこれは超小型ゲーミングPCじゃん、と思ってしまう。ITmedia PC USERでも、国内発表会の模様やゲーミング目線でのレビュー記事が掲載されている。
しかしゲームコントローラを外してしまえば、(背面のクーラーユニットは気になるものの)その姿は同社のこれまでの「OneMix」シリーズとさほど変わらない。OneGx1を汎用(はんよう)超小型PCとして見ると、OneMixシリーズとは何が違い、どういう立ち位置になるのだろうか。
この記事では、本来のコンセプトとは異なってしまうだろうが、超小型PCユーザーとしては気になる「汎用超小型PCとしてのOneGx1」の実力と使い勝手、特にキーボード回りについて評価してみたい。
ストレージの「Micro PCI-e」にご用心
ゲーミングを意識した超小型PCということで、そのシステム構成はハイエンドクラス……と思いきや、搭載するCPUはCore i5-10210Y(1GHz〜4GHz、4コア8スレッド)と、モバイル向け第10世代Coreプロセッサ(開発コード名:Comet Lake)としてはミドルレンジのものだ。2020年8月時点におけるOneMixシリーズの最上位モデル「OmeMix3Pro プラチナエディション」がCore i7-10510Y(1.2GHz〜4.5GHz、4コア8スレッド)を搭載していることを考えると、“控えめ”な仕様といえる。
メインメモリはLPDDR3規格で、容量は8GBか16GBを選べる。ストレージは“Micro PCI-e”接続のSSDで容量は256GBもしくは512GBから選択できる。システムメモリもストレージも容量だけを見ると十分なように見える。
少し気が早いかもしれないが、ここでOneGx1のモバイルPCとしての実力をチェックしてみよう。今回は、CPUのテストを行う「CINEBENCH R20」、PC性能を総合的にベンチマークする「PCMark 10」、ストレージの読み書き速度をチェックする「CrystalDiskMark 7.0.0g」、そしてバッテリー持ちをチェックする「BBench 1.0.0」の5種類を実行している。比較対象として、OmeMix3 Pro プラチナエディション(OM3Pプラチナ)と、Core i3-10110Yを搭載する「OneMix3 S+」のスコアを並べている。
なお、OneGx1を含むテスト機材の構成は以下の通りとなっている。BBenchではディスプレイ輝度を100段階の下から50レベルとし、電源プランをパフォーマンス寄りのバランスに設定して測定している。
モデル名 | OneGx1 | OM3Pプラチナ | OneMix3S+ |
---|---|---|---|
CPU | Core i5-10210Y | Core i7-10510Y | Core i3-10110Y |
メインメモリ | 16GB | 16GB | 8GB |
SSD | 512GB | 512GB | 256GB |
直販価格(税別) | 11万6900円(LTEモデル) | 12万5100円 | 8万7120円 |
ベンチマークの結果は以下のようになった。
モデル名 | OneGx1 | OM3Pプラチナ | OneMix3S+ |
---|---|---|---|
PCMark 10 | 3267 | 3332 | 2598 |
CINEBENCH R20(マルチ) | 877 | 912 | 599 |
CINEBENCH R20 (シングル) | 304 | 322 | 315 |
CrystalDiskMark 7.0.0g リード(SEQ1MQ8T1) | 446.08MB/s | 1450.63MB/s | 1388.6MB/s |
CrystalDiskMark 7.0.0g ライト(SEQ1MQ8T1) | 435.57MB/s | 803.84MB/s | 777.95MB/s |
BBench 1.0.1 | 6時間25分34秒 | 6時間27分38秒 | 7時間8分55秒 |
CINEBENCH R20やPCMark 10の結果は、CPU相応といった印象だ。CrystalDiskMark 7.0.0gのスコアは、他の2モデルと比べると大幅に低い値となった。
ここで注意したいのが、OneGx1のストレージ接続規格「Micro PCI-e」だ。
ストレージ情報取得ツール「CrystalDiskInfo 8.5.2」によると、搭載するSSDは「Hoodisk SSD 512.1 GB」とあり、対応転送モードは「PCIe 3.0 x2」となっている。一方で、搭載するSSDのメーカーであるHoodiskのWebサイトでは出荷しているSSDが全て「Serial ATA 6Gbps対応」、つまりSerial ATA 3.0接続であるとしている(参考リンク)。実際、ストレージの転送速度を測定するCrystalDiskMark 7.0.0gのスコアは、Serial ATA 3.0接続のSSDで一般的なスコアとほぼ同等だった。
フットプリントは小さいが厚みに注意
超小型PCでも“高性能”が望まれる中、画面サイズの主流は7型から8型台にシフトしつつある。当然、それに伴い本体サイズも大きくなる傾向だ。そんな中、OneGx1は7型ディスプレイとCore i5-10210Yを搭載していることは注目に値する。
本体サイズは、同じCore i5-10210Yを搭載するOmeMix3 Proが約204(幅)×129(奥行き)×14.9(厚さ)mmであるのに対し、コントローラーなしのOneGx1は約173(幅)×136(奥行き)×21(厚さ)mmと、幅が31mm短くなり、フットプリントベースでは10%近く省スペースとなっている。
ただし、本体の厚さは21mmと最近のモバイルノートPCと比べても厚い。重さはLTEモデルで約645g、LTEなしモデルでも約625gと、一回り大きなディスプレイを搭載するOneMix3 Proとほぼ同等となっている。
どうかこのままであってほしいキーボード
本体の幅が短くなったおかげで、8型台ディスプレイを搭載するOneMix3シリーズと比べると「両手持ち親指タイプ」はだいぶやりやすくなった。
キーピッチは実測で約14mmと、8型台ディスプレイ搭載の超小型PCのキーピッチで平均的な18〜19mmと比べると明らかに狭い。そのため、一般的なノートPCのように本体を卓上に置いてキーを打つ場合、片手で4本指、両手で8本指を使うようにしても、タイプで指が“擦れて”狭く感じてしまう。評価作業では、片手で3本、両手で6本指にしてようやくストレスがなくなる、といった状況だった。
やや狭めなOneGx1のキーボードだが、従来のOneMixシリーズからレイアウトが変更されたおかげで、日本語入力におけるタイピングが大幅に改善している。
ただし、今回評価したOneGx1には米国英語(US)配列のキーボードが搭載されており、実際に日本で出荷されるものは日本語配列のキーボードが搭載される。当然、記号などのレイアウトは両者で異なる。
これまでのOneMixシリーズでは、日本語キーボードモデルと米国英語キーボードモデルの両方を取りそろえていたが、10月30日現在、OneGx1の正規代理店モデルは日本語キーボードモデルのみ取り扱っている。ここから先のキーボードの話は、USキーボード構成に対する評価であることをご了承いただきたい。
OneGX1のキーボードレイアウトは、キーボード最下段の下に光学式ポインティングデバイスを搭載し、その両脇に左右のクリックボタンを用意したタイプだ。今までのOneMixシリーズに当てはめると、OneMix3 Proシリーズに近い。ただし、キーは「アイソレーション」ではなく、懐かしい感もあるキートップを隣接して敷き詰めるタイプとなっている。
OneMix3 Proシリーズではキーボード最上段の右端に指紋センサーを配置し、その左隣に電源ボタンを備えていた影響で、その段に用意していたカギカッコや長音などの記号キーが左側に寄せられていた。それに対して、OneGx1では、最上段から指紋センサーと電源ボタンを廃し、その分だけ記号キーを右側にシフトしている。
そのおかげで、日本語入力で多用する長音や「9」キーの真上と通常のキーボードとほぼ同じ場所にきて無理な運指をしなくてもタイプできるようになった。わずか1つのキー、それも長音キーを右に寄せただけの変化だが、その変化がもたらす効果はすこぶる大きく、キーピッチがOneMix3 Proシリーズより狭いのに、日本語の文章入力ではOneMix3シリーズを超える快適さをもたらしている。
一方で、日本語入力で多用するカギカッコキーは、キーボード最上段中央にあって(それでもOneMix3Proシリーズと比べてキートップ1つ分右に寄せているが)通常とは異なる運指が必要になる。
気になるのは、このUSキーボードの日本語入力における快適さが日本語キーボードにも受け継がれているか、である。
前例となるOneMix3 ProにおけるUSキーボードから日本語キーボードの変更を確認すると、最上段において「P」キーの右隣に「@」キーを配置し、そこにあった「BackSpace」キーを上隣りに、そして、その場所にあった「Delete」キーを最上段の右端から2つ目(右端は電源ボタン)に移し、その左隣には「チルダ」「バックスラッシュ」キーを並べ、長音キーはそれらキーのさらに左隣に追いやられた。その結果、これらの記号キーはキーボードの最上段中央という、タイプしにくい場所に置かれることになってしまった。
「@」「チルダ」「バックスラッシュ」の変更は日本語キーボードに合わせたチューニングと推測できる。それにしても、日本語入力で多用する長音をタイプしにくい場所に追いやってしまったことで、キーボード自体の作りは優れていたものの、日本語入力はやりづらかった。
OneGx1の日本語キーボードでもOneMix3 Proに準じた変更がなされる可能性は高いが、願わくは、英語キーボード搭載モデルの併売か、もしくは、長音キーだけでいいのでキーマッピングを変更できるユーティリティーの登場を願うばかりだ。
全力回転と抑制回転で表面温度と騒音はどう変わる?
OneGx1は、7型ディスプレイ搭載のボディにCore i5-10210Yを備えているため、強力なクーラーユニットを搭載している。クーラーユニットは2基のクーラーファンと2本の銅製ヒートパイプ、そして、銅製ヒートシンクを組み合わせで構成しており、負荷と内部温度、そして、実装する制御システムによってファンの回転数を動的に変更している。2基のファンが全力で回転した状態での騒音はさすがに“迫力”がある。
OneGx1のような「コンパクトなボディーに高性能CPUを搭載した超小型PC」で気になるのが、ボディー表面の温度だ。強力なクーラーユニットを搭載しているが、これによってどのくらい温度上昇を抑えられているのだろうか。3DMarkの「Night Raid」を実行している際の実行中に、騒音計でファンの音、非接触タイプの赤外線温度計で温度を測定してみた。
なお、OneGx1では、ファンアイコンを記したキーを押すことでファンの動作モードを3段階に変更できる。今回はパフォーマンスを優先した“ファン全開”モード、静音性を優先した“ファン抑制”モードのそれぞれで騒音と温度を測定している。
ファン回転設定 | 全開回転 | 抑制回転 |
---|---|---|
発生音量 | 47.4dBA | 37.6dBA |
表面温度(Fキートップ) | 41.3度 | 38.6度 |
表面温度(Jキートップ) | 41.5度 | 39.6度 |
表面温度(パームレスト左) | 40.1度 | 39度 |
表面温度(パームレスト右) | 42.2度 | 40.9度 |
表面温度(底面) | 51.0度 | 48.7度 |
3DMark(Night Raid)のスコア | 4337 | 3058 |
キートップとパームレストは共に、表面温度が40度前後に達している。抑制回転モードでは各測定ポイントとも2度ほど温度は下がるものの、それでも40度をわずかに下回る程度だ。
騒音は、全開回転モードでが50dBAとかなりのものだった。音量に加えて、小口径ファンにありがちな「ヒイィィィィィンン」という高音なので、余計に耳につきやすい。一方、抑制回転モードではファンが回っていることは認識できるものの、その音量はわずかだ。
ファンの音がほとんどしないのに、測定温度が全開回転モードより(わずかながら)低くなっているのはある意味驚き……なのだが、そのからくりは3DMarkのスコアを見れば分かる。処理能力を抑制しているのだ。
3DMarkのMonitoringグラフによると、最も負荷の高い「CPU TEST」において、全開回転モードではCPU動作クロックが2GHz近くまで上がるのに対して、抑制回転モードにすると1GHz近くまで落としていることが確認できた。
汎用的な小型PCとしても使いやすいOneGX1
超小型ゲーミングPCとして注目されているOneGx1ではあるが、コントローラを外した「汎用」PCとしてその素性はいい。「英語キーボードでの評価」という条件付きだが、日本語入力のしやすさはOneMixシリーズを上回るし、気になる表面温度と騒音もOneMix3 Proと同レベルに収まっている。その分、本体の重さは同等で厚みはあるものの、フットプリントはコンパクトで、設置における自由度は高い。
日本語キーボードのレイアウトが英語キーボードに近い、特に長音キーの位置が同じならば、汎用の超小型PCとしても選択する理由は十分にある。コンパクトなゲーミングPCと汎用PCを兼ねるデバイスを探しているなら、有力な選択肢となるはずだ。
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