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Thursday, January 28, 2021

バイデン政権のイラン外交、核合意復帰は困難な道 - Wall Street Journal

 【ワシントン】ジョー・バイデン米大統領の国家安全保障チームは、彼の外交政策面の主要な約束の1つについて、困難な道のりを予想している。その約束とは、イランを説得して同国が2015年に主要6カ国と結んだ核合意に復帰させ、その後、さらに厳しい一連の制限を盛り込んだ追加合意を同国に受け入れさせることだ。

 バイデン新政権は、発足直後の数日間に外交課題の面で迅速なスタートを切った。ロシアと長距離核兵器制限を目指す新戦略兵器削減条約(新START)の延長で原則合意したほか、世界保健機関(WHO)と地球温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定への復帰を決めた。

 しかし、核合意に復帰するようイランを説得したいとの希望を実現するための道は、ずっと険しい。その過程で、米国の制裁政策が外交を行う上で序盤の障害となる可能性がある。

 2015年のイラン核合意に基づいて米国は、オバマ政権が科した複数の制裁措置を緩和することに同意した。イランの核開発計画を制限することと引き替えの措置だった。米国は、テロ行為と弾道ミサイル開発、人権侵害に抗議するという別の権限でも、イランに一連の制裁を科しており、こうした案件は対象に含まれていなかった。

 26日に上院で指名承認されたアントニー・ブリンケン国務長官は、先週の議会証言の中で「イランが核合意を再び順守すれば、われわれもそうする」と語った。

 しかし、トランプ前政権は過去4年間に、2015年の合意で解除された制裁を復活させただけでなく、イラン経済の同じ対象分野の多くを狙って、反テロ行為の権限による制裁や、弾道ミサイル開発への対抗措置として制裁を科した。ドナルド・トランプ前大統領は、イラン経済にとって極めて重要な石油産業と金融業をターゲットとした。こうした戦略には、核合意への復帰を難しくするという狙いも一部含まれていた。

 バイデン政権の幹部らは、テロ行為や人権問題に対する一部の制裁を継続するつもりであり、同じ権限に基づいて新たな制裁を科す可能性があると語っている。これに対しイランの指導者らは、米国はトランプ氏が導入したすべての制裁を解除すべきだと主張している。

 行動のタイミングも問題となる。イラン側は、米国が先に制裁解除に動くべきだとしているが、バイデン政権の当局者らは、イラン政府が先に合意順守の行動を取るべきだと述べている。

イランのザリフ外相は、米国が「トランプ氏の就任以降に科した制裁を全て」解除すべきだと主張する

Photo: russian foreign affairs ministry/Shutterstock

 イランのジャバド・ザリフ外相は22日、外交誌フォーリン・アフェアーズのウェブサイトで、「バイデン新政権はそれでもまだ、核合意を救い出すことが可能だ。政権は、トランプ氏の就任以降に科した制裁、再度科した制裁、看板が掛け替えられた制裁を無条件で全面的に解除することから始めるべきだ」と述べた。

 当局者や中東のアナリストらは、制裁をめぐる論争がなかったとしても、核合意を着実に実行し、将来の合意で一層厳しい制限に同意するようイランを説得することは難しいだろうと指摘する。ブリンケン氏は先週、「われわれはそうした状況からほど遠い」と述べていた。

 トランプ政権が2018年に核合意から離脱して、制裁措置の利用を強化して以降、イランは核合意のウラン濃縮制限を破り、高濃縮ウランを備蓄し、核合意で禁止された先進的な遠心分離機の研究を行うといった対応を取ってきた。こうした遠心分離機は、核兵器に利用可能なレベルのウランのより迅速な製造を可能にする。イランはまた、金属ウランを製造するための作業にも着手している。金属ウランは、核弾頭の中核部品を作るのに使われる可能性があるものだ。

 こうした動きの大半は、逆戻りが可能であり、現旧の当局者からは、イランが交渉の際に強みとなるものを構築するための方法の1つとみられている。一方で、イランが核爆弾を作れるだけの高濃縮ウランを蓄積するのに必要とする時間を1年から数カ月に短縮するものでもある。

 バイデン政権は2015年の核合意を復活させるだけでなく、より厳しい制限を持ち、より幅広い領域をカバーする追加合意をまとめると約束しており、このことでより大きな試練に直面する可能性がある。

 バイデン政権の当局者は、後続の合意を結ぶ目的の一つとして、2015年の核合意の条件で時間の経過とともに緩和される予定になっていたイランの核活動に関する厳しい制限を延長することがあると述べる。これには、イランが備蓄できるウランの量を制限したり、ウランの純度に核兵器にするには程遠い3.67%の上限を設けたり、イランが稼働できる遠心分離機の台数を制限したりする措置が含まれる。

 一定期間後に核開発の制限が解除されるこの「サンセット条項」は、イスラエルやアラブの湾岸諸国のほか、一部の米国の議員からも厳しく批判されていた。彼らはこれにより、イランが徐々に核兵器開発のための核インフラと潜在的な選択肢を広げることが可能になると主張していた。

 バイデン政権の当局者らは、追加合意のもう1つの目的が、イランの弾道ミサイル開発をカバーすることにあると述べる。当局者らによれば、弾道ミサイル開発は、2015年の核合意で思いとどまるべきだとされたものの、禁止はされなかった。

イランの弾道ミサイル計画は、2015年の核合意で思いとどまるべきだとされたものの、禁止されなかった

Photo: /Associated Press

 イランのザリフ外相は、2015年核合意の条件について再交渉する準備はできていないと述べたが、イラン政府が追加的な譲歩の見返りとして、将来の合意で追加的な制限を受け入れる可能性は排除しなかった。しかし、イランは長年にわたり、アラブ諸国やイスラエルといった敵対勢力の先進的な空軍力に対抗するためには、弾道ミサイル開発が必要だと主張している。

 追加の合意を目指すなら、バイデン政権は幾つかの込み入った外交戦略を強いられる可能性がある。まず、イランが2015年の核合意の枠内に復帰する場合、関連の制裁を解除する必要がある。しかし、その場合には、新たな制裁を課すという脅しや、過去の制裁の一部再実施、経済的な支援の拡大など、新たな形でイランを説得し、より厳しい制約を受け入れさせる必要がある。

 ブランダイス大学クラウン中東研究センターの所長で、オバマ大統領時代に大量破壊兵器の専門家として国家安全保障会議(NSC)に参加したゲーリー・サモア氏は、「2015年核合意はもともと時間を稼ぐための方法であり、恒久的な解決策だったことは一度もない」と語った。

 同氏は「両国がそれを望んでいるのだから、2015年の合意を復活させる方法を探り出すことはできるはずだ」と指摘。「ただ、直ちに追加合意を実現する道筋は見えない」と付け加えた。「核開発に関する制限を拡大・強化するというわれわれの要求に対し、イランは抵抗を示すだろう」という。

 2015年の核合意は、上院で批准承認が必要な条約という形をとっていないが、バイデン政権は今回、議会と事前協議することを約束している。その中には、トランプ前大統領がイランへの圧力として打ち出した制裁強化策を活用するよう求めていた議員も含まれる。

 上院外交委員会の共和党トップ、ジェームズ・リッシュ上院議員(アイダホ州選出)は先週、「融和ではなく封じ込めが、成功につながる唯一のアプローチだ」と強調している。

 バイデン大統領は、外交攻勢をかけるために、イラン側との接触の前に、核合意に参加している欧州の同盟国のほか、イスラエルを含む他の友好国と協議するための特使を任命するとみられる。

 大統領はここ数日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領やフランスのエマニュエル・マクロン大統領と、電話協議の中でイランの核問題について話し合っている。

 バイデン政権の当局者は、トランプ時代の制裁措置のうち、具体的にどれを維持し、どれを撤回するかについて、ほとんど言及していない。

 米シンクタンク、アトランティック・カウンシルの上級フェローで米財務省元幹部のブライアン・オトゥール氏は、バイデン政権はテロ関連の制裁を正式に取り消すのではなく、財務省の管轄内で実効性を放棄する措置を取る可能性があると述べた。ただ、そのような手続きでイランが満足するかどうかは明らかではないと付け加えた。

 同氏は「技術的にはそういう方法があるが、交渉には時間がかかるだろう」と指摘し、「イラン核合意への完全復帰が一夜にして実現するという期待は、見当違いではないだろうか」と述べている。

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