2021年02月28日07時41分
東日本大震災の後、沿岸部などの住宅をまとめて高台へ移す集団移転が、南海トラフ地震で津波被害が想定される地域で「究極の防災策」として注目された。しかし、事前移転の計画は、この10年間で検討が長期化したり頓挫したりするケースが相次ぎ、国の補助事業の適用もゼロのままだ。
地滑り津波、すぐに避難を 地震津波より早く到達も―南海トラフ地震・静岡大など
静岡県沼津市の内浦重須地区は駿河湾の最奥部にあり、南海トラフ地震で最大8.6メートルの津波が予想される。自治会は2012年3月から、国の防災集団移転促進事業(防集)の活用を念頭に勉強会を重ねた。
しかし、新たな家の建築費は補助の対象外な上、現在住む地域が災害危険区域の指定を受け土地利用が制限されるなどの点がネックとなり、集落単位での移転は頓挫。7世帯だけが県の区画整理事業に乗る形で海抜約60メートルの場所へ越すことになった。
「孫の未来のためと思ってやってきた」。移転する原敏さん(74)は力を込める。1854年の安政東海地震による津波で地区の家が流された伝承を知る原さんは、12年に視察に訪れた宮城県気仙沼市など被災地に残されたがれきの山の光景が頭から離れない。「一番の安全策は高台に住むことと強く思った」
ただ、沿岸部に残る住民との「距離」は否めない。転居を諦めた70代の男性は「土地や建物に1000万円以上かかる。跡取りもいない自分が背負える額じゃない」と話す。移転先は、仕事場や商店がある地区の中心部から徒歩20分ほどの距離。車を運転できなくなる将来に不安もあった。
大震災後、若い世代は安全で便利な住環境を求めて流出し、地区の高齢化は加速したという。男性は「命を守ろうと出て行く人を引き留めることはできない」と寂しげに語った。
内浦重須地区の勉強会を支援した北海道大の森傑教授(都市計画)は「集団移転は慎重に進めないと地域社会の断絶や偏見、経済格差が生まれる可能性がある」と指摘。移転を選ばない高齢者らへの支援を同時に進めるべきだと訴える。
防集の事業費は9割以上が国の負担だが、補助上限額があり、高知県の試算では億単位の市町村負担が見込まれる。最大34メートルの津波が予想される同県黒潮町の出口地区も14年、住民と町の財政負担を理由に集団移転を断念。まずは身の安全を守り避難につなげるよう木造住宅の耐震化にかじを切った。5割にとどまっていた地区内の耐震率は、7割まで改善した。
南海トラフ地震対策を検討する内閣府の作業部会で主査を務めた河田恵昭関西大特別任命教授は「高台や防潮堤などのハード対策を充実すれば安心という考えから脱し、住民自ら危機意識を持つことが減災につながる」と話している。
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