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Tuesday, February 16, 2021

記者の目:はやぶさ2の歴史的意義 探究する人間たちの底力=永山悦子(オピニオングループ) - 毎日新聞

gugurbulu.blogspot.com
探査機「はやぶさ2」が岩だらけで極めて困難な地形だった小惑星リュウグウへの最初の着陸に成功し、管制室で喜ぶメンバー=相模原市で2019年2月(JAXA撮影) 拡大
探査機「はやぶさ2」が岩だらけで極めて困難な地形だった小惑星リュウグウへの最初の着陸に成功し、管制室で喜ぶメンバー=相模原市で2019年2月(JAXA撮影)

 昨年12月、小惑星リュウグウの「お宝(石)」を地球へ届けた探査機「はやぶさ2」の旅は、文句の付けようがないものだった。日本は1985年に太陽系探査へ乗り出して以降、初代のはやぶさなどで多くのトラブルや失敗を経験してきた。それらを乗り越えてつかんだ大成功だった。

 私は、はやぶさ時代から15年あまり取材を続けてきた。遠く離れた星で奮闘する探査機と、どんな困難にもあきらめないメンバーに魅せられ、はやぶさ2打ち上げの2014年から、ウェブのはやぶさ2特設ページで探査のすごさや科学的な意義を伝える記事を同僚とともに400本以上書いた。それらの取材から、科学的挑戦における「新たなモデル」が見えてきた。

「実験+本番」とオールジャパン

 一つ目は「実験+本番」というセットで挑戦する戦略だ。はやぶさは実験機、はやぶさ2が本番機だった。この戦略を考え、初代を率いた川口淳一郎・宇宙航空研究開発機構(JAXA)シニアフェローは「宇宙開発予算が限られる日本で、いきなり1機で世界レベルを狙うのは難しい。実験機で新たな技術に挑み、その経験をもとに本番機を作る。それなら低予算でも世界に対抗できる」と説明する。

 はやぶさ2の成功は、トラブル続きだったはやぶさの経験があってのものだった。この戦略は、失敗を恐れず挑戦する土壌となる。科学研究全体にも同じことがいえるだろう。短時間で成果を求められる最近の風潮は、研究者たちから挑戦する意欲を奪っている。実験的に挑める環境があれば、低迷する日本の科学研究の裾野も広がるはずだ。

 二つ目は「オールジャパン体制」を確立したこと。03年に宇宙航空関係の3機関を統合したJAXAには、分野間の見えない壁があった。そんな中、開発期間が限られたはやぶさ2には、実用衛星など別分野の専門家も投入された。小惑星での運用も組織全体から人を集め、運用訓練は有人宇宙開発の訓練法を参考にした。「オールJAXAチーム」になっていった。

 さらに、300億円近い国費を一つの科学プロジェクトに投入するには、全国の科学者の理解が欠かせない。JAXA関係者が奔走して科学者たちに協力を求め、オールジャパン体制を作り上げた。

 国の科学プロジェクトで、専門家が総出で協力する必要性は言うまでもない。特に、宇宙開発では、宇宙飛行士を月や火星へ送る国際探査が本格化する。そのとき太陽系天体に関する科学的な知見は不可欠だ。はやぶさ2は、分野の垣根を越えた協働の好例となるだろう。

 最後に、積極的な情報発信を挙げたい。メンバーがつぶやくツイッターはフォロワーが23万を超え、管制室からのウェブ中継や全国にメンバーが足を運ぶ講演会なども展開した。これらは「宇宙探査への理解を広げたい」と、有志数人が運用など本務のかたわら「手弁当」で企画した。

新たな挑戦で未来へつなげて

 金もうけの対極にあるはやぶさ2は「究極の基礎研究」とも言われる。基礎科学は社会の理解を得るのが難しいものだが、NTTデータが昨秋に実施した調査では、一般の人の「はやぶさ2」の認知度は約9割もあった。はやぶさの後継機という有利さはあるものの、丁寧な情報発信の可能性を示したと言えよう。

 これらの取り組みは、当事者にとっては「苦肉の策」だった側面はある。しかし、私は、日本の宇宙開発や科学研究へ重要な示唆を与えるモデルになると考える。

 はやぶさの前は、小惑星からモノを持ち帰ることなど、米国ですら「不可能」と考えていた。つまり、はやぶさ、はやぶさ2は「無から有を生むプロジェクト」(川口さん)だったといえる。そこまでの挑戦だったからこそ、さまざまな課題を解く糸口を示すことにもなったのだろう。

 そして、その挑戦の主役は「探査機」ではなく「人」だった。はやぶさ2では、約600人のメンバー一人一人が「自分がいなければこの探査はできなかった」と思うまで、自らの役割を突き詰め、ミスやトラブルが付け入るすきを作らなかった。「どうすればできるか」を探求する人間の底力を見た思いだ。

 はやぶさ2は、今も次の小惑星へ航行中で、リュウグウの石の分析はこれからだ。私は今後もはやぶさ2を追いかけたい。一方、別に期待することもある。社会へ「新たなモデル」を示す次の挑戦だ。はやぶさ2の津田雄一プロジェクトマネジャーは「子どもたちに、未来に希望は確かにあり、大人になることは楽しいことだと感じてもらいたい」と語る。はやぶさ2で手にした「力」を未来へつなげる責任が、私たちにはある。

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