「ゴルゴンの蛇の髪のように群生する触手」「おれにいわせるとタコだ」−
▼英作家、ウェルズの『宇宙戦争』(一八九八年)から地球に襲来した火星人の姿の描写を抜き出した。火星人と聞けば今もタコのような怪物をつい想像するが、この古典SF作品の影響らしい
▼地球人を攻撃する怪物の姿には古代からの火星へのおそれもあったか。火星はかつて不吉な星と考えられていた。ローマ神話では戦争の神であり、中国でも火星の接近に戦争や飢饉(ききん)の兆しを見たというから火星の不吉さが醜悪な怪物を人類に空想させたのかもしれぬ
▼不吉どころか、火星ひいては生命の秘密をひもとくカギを得るチャンスとあらば人類には大いなる吉兆だろう。米航空宇宙局(NASA)の探査車「パーシビアランス」がおよそ七カ月間の宇宙の旅を経て、火星に無事に着陸した
▼数十億年前は温暖で水もあったと考えられる火星。そこに生命が存在した痕跡を約二年をかけて探査するという。地球以外にも生命がいるのか。探査結果によっては科学上の大きな謎が一気に解明に向かう可能性がある。はっきりすれば、われわれはあのタコの怪物からも解放されよう
▼帰還は二〇三〇年代と聞く。「パーシビアランス」とは「忍耐」「不屈」の意味だそうだ。結果を待つ、こちらも期待と好奇心を抑えるのに忍耐が必要なほど胸おどる探査である。
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