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Wednesday, February 17, 2021

ネット企業守る米通信品位法、どう改正されるか - Wall Street Journal

 米通信品位法230条の改正が現実味を帯びてきた。同条項はユーザーがオンライン・プラットフォーム上で発言する内容について、プラットフォーム企業が責任を負わないよう保護するものだ。ドナルド・トランプ前大統領は任期終盤に230条の撤廃を試みた。ジョー・バイデン大統領も同条項を無効にすべきとの考えを示している。

 米議会では230条改正を巡り、民主・共和両党からこれまで20以上の法案が提出された。ブライアン・シャッツ(民主、ハワイ州)、ジョン・スーン(共和、サウスダコタ州)両上院議員はその一つである「PACT」法案を数週間以内に再提出する予定だと、スーン氏は述べた。2月5日には別の法案が民主党上院議員3人によって提出された。法案の趣旨はソーシャルメディア企業に「サイバーストーキングや標的を絞ったハラスメント(嫌がらせ)、差別を可能にしていることの説明責任」を負わせることだという。

 専門家や政治家の間には、230条の撤廃はしないことで合意がある。だが意見が一致するのはそこまでだ。多くの人が230条のアップデートは必要かつ差し迫っていると考える一方で、法改正の試みの大半が危険なものだと考える人も大勢いる。また、法改正のアイデアは飛び交っているものの、米国が直面する他の課題を踏まえた上で、それが議会の優先課題のどの辺りに位置するのかは定かでない。

 巨大IT(情報技術)企業の一部トップは、230条の下でいかなる言論が容認されるのかを明確にすることを歓迎すると述べている。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は昨年10月に、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは今月10日にそう発言した。一方、ツイッターのジャック・ドーシーCEOは9日、230条を改正すべきとの考えに対処するために、より「市場主導」のアプローチを提案した。たとえ法案が可決されても、改正法の試金石としてどのような訴訟が持ち込まれるのか、またその裁判によってどのような判例が確立されるのか、正確には分からない。法廷で徹底的に審理するためには数年を要する可能性がある。

 「選挙の完全性からオンライン・ソーシャルメディアの偏見に至るまで230条はあらゆる問題に関係する」。保守系シンクタンクのヘリテージ財団で最近まで技術政策センター所長を務めたクロン・キッチン氏はこう話す。同氏は、もしこの一つの法律を変更するだけでインターネット全般の問題を解決しようとするならば、その予期せぬ影響にわれわれは圧倒されるだろうと指摘する。

Photo: Doug Chayka

 1996年に成立した米通信品位法230条は、当時芽吹いたばかりのインターネット業界を保護し、促進する明確な意図があった。それは国家とインターネット・プラットフォームの基本的な約束事だ。おおまかに言えば、ユーザーの犯罪行為をサイトが故意に助けるのでない限り、ユーザーがサイトで何を共有するかはユーザー自身の責任だということが書かれている。230条はフェイスブックやグーグルといった巨大企業のビジネスモデルを可能にしている。また、これらの巨大企業と競合する新興企業のTikTok(ティックトック)やMeWe(ミーウィー)、Parler(パーラー)、Gab(ギャブ)などが存在しうる理由でもある。さらに、民泊仲介サイト大手エアビーアンドビーなど多種多様なビジネスを可能にしている。

 1996年以降、多くの変化が起きた。当時のインターネット利用者は3600万人で、大半が米国内にいた。ピュー・リサーチ・センターが昨年7月に公表した調査結果によると、ソーシャルメディアが政治への影響力を持ちすぎていると答えた人は米国の成人の72%に上った。

 われわれがどのような情報を消費するかを決めるIT業界の力――そして精査や責任追及を免れるために230条が提供する保護――を考えると、数多くの両党の政治家や任命された公職者、キャリア官僚が同条項に懸念を抱くのも不思議ではない。

 多くの民主党議員は、ある種の流言飛語を野放しにする言い訳としてプラットフォーム企業が230条の保護を利用してきたとの懸念を示す。多くの共和党議員は、プラットフォーム企業が230条を利用して過度に言論を取り締まっているとの考えを抱く。230条の文言を明確化するよう求める人もいれば、一定のルールを守ってビジネスを行う場合のみ、企業が保護されることを明確にした例外規定(カーブアウト)を望む人もいる。ジョシュ・ホーリー(共和、ミズーリ州)、テッド・クルーズ(共和、テキサス州)両上院議員ら数人は、230条を骨抜きにしたがっている。

 仮に1996年以前の法的状態に戻るとすれば、コンテンツの管理(形はどうあれ)を行うウェブサイトやアプリが、オンラインで提供し拡散するもの全てに責任を負うことになる。フェイスブックやユーチューブのようなサービスは、管理を中止せざるを得なくなってスパムやヘイトスピーチなどの有害コンテンツを氾濫させるか、もしくはコンテンツを管理したことで、ユーザーの投稿が引き起こす損害に対する個人訴訟や集団訴訟に押しつぶされる可能性がある。その結果、最も可能性が高いのは、プラットフォーム上で許容される範囲や分量を極端に狭めてしまうことだ。

 ツイッターやインスタグラムのユーザーにとって、それは「共有」への打撃となり、自分の投稿が(今のハードルがかすむほどの)大量の自動フィルターや人間による検閲を無事通過することを願うしかなくなるといった状況を意味する。一方、グーグルの検索結果やエアビーの宿泊先リストは誰かが事前に厳しくチェックし、保証する必要が出てくるだろう。このことが数兆ドル規模の米IT大手にとって壊滅的な負担を強いるならば、業界に参入したばかりの新興企業への負担は計り知れない。

 これらを踏まえ、大半の法案は230条を完全に消滅させるのではなく、中身のアップグレードや拡充に重点を置いている。

プラットフォーム企業に広告やハラスメントの責任を負わせる法案を今月提出した米上院議員グループのエーミー・クロブシャー、メイジー・ヒロノ両氏

Photo: Tom Williams/Zuma Press

 民主党上院議員のマーク・R・ウォーナー(バージニア州)、メイジー・ヒロノ(ハワイ州)、エーミー・クロブシャー(ミネソタ州)各氏は今月、「SAFE TECH」法案を提出した。どう見ても共和党議員が賛同するような内容ではない。5種類以上の提案の寄せ集めであり、掲載された広告や手段を提供したハラスメントについて、プラットフォーム企業に責任を負わせるというものだ。また(例えばの話だが)、国連がミャンマーの大量虐殺に一定の役割を果たした疑いがあるとしたフェイスブックに対し、生き残った少数民族ロヒンギャが米国の法廷で訴訟を起こすことが可能となる。

 「SAFE TECH法案により、われわれは230条を巡る議論を、反保守的バイアスという共和党の誤った主張からインターネット・プラットフォームが引き起こす真の被害にシフトさせようとしている」とヒロノ上院議員は述べた。

 一部の学者は、SAFE TECH法案が230条を撤廃するのと同じくらい、インターネット経済を脅かしかねないと警鐘を鳴らす。スタンフォード大学のプラットフォーム規制プログラムのディレクターで、2015年までグーグルの法務部門幹部を務めたダフニ・ケラー氏は「これは無責任なまでにずさんに書かれた法案だ」と話す。

 ある規定は、サイトがコンテンツの対価を受け取ったり支払ったりすることへの法的申し立てを可能にする。ケラー氏によると、それによってクラウドサービスを提供するアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)や音楽配信のバンドキャンプのようなビジネスに対する訴訟が増える可能性があるという。AWSは顧客のユーザーが共有するコンテンツに責任を負うことになりかねない。バンドキャンプではインディーズ系アーティストが楽曲を販売している。

 またケラー氏によると、同法案は「公民権」の侵害を緩く定義しているといい、プラットフォーム企業は「ハラスメントや脅迫」への責任を負うが、どういう行為がユーザーによる別のユーザーへのハラスメントや脅迫に該当するかは裁判所に判断が委ねられる。「差別やハラスメントの被害者を救うことを意図した規定が、トロール(荒らし)や白人至上主義者組織の武器として利用されるだろう」と同氏は言う。

 230条の共同提案者の一人であるロン・ワイデン上院議員(民主、オレゴン州)は「この法律には立派な目標がある」と語った。「残念ながら、最初に書かれたままでは、オープンなインターネットのあらゆる部分を壊滅させ、オンラインの言論に大規模な巻き添え被害をもたらすだろう」

 2020年6月に最初に提出され、スーン議員らが近く再提出する予定のPACT法案は、プラットフォーム企業が自社のコンテンツ管理方法を明確に説明することや、どのようなコンテンツを排除したかを四半期ごとに報告することを義務づける。小規模な事業者には緩めの要件を課す。巨大IT企業のようなリソースを持たない新興企業に過大な負担をかけることを避けるためだ。

 スーン議員によると、「SAFE TECH法案のように特定の問題に対処するために的を絞ったアプローチを採用したものがある」のに対し、「PACT法案はテクノロジー企業のコンテンツ管理手法の透明性を高め、それによって一層の説明責任を果たさせるものだ」という。「そしてPACT法案が達成を目指す成果には、超党派の支持がある」

 ブルッキングス研究所のシニアフェロー、ニコル・ターナー・リー氏は、230条の改正を通じてインターネットをどう修正するべきかという問題は、非常に広範囲で複雑であるため、行政府のリーダーシップが必要かもしれないと指摘。バイデン大統領が、ヘイトスピーチやハラスメント、扇動の規制など、オンラインの言論に関連する複数のテーマを協議する委員会を招集し、その議題の一つとして230条改正を取り上げればよいのではないかと述べた。

 そのような委員会が間もなく設立される可能性がある。バイデン大統領が商務長官に指名したロードアイランド州のジーナ・レモンド知事は、1月26日の議会公聴会で、230条に関して何をなすべきかを決めるため、商務省電気通信情報局の権限を使って利害関係者を召集する考えを示した。

 ただ230条に何が起きようとも、その手直しだけで現代のインターネットのあらゆる問題を解決することはできない。

 「われわれは基本的に人間の良い行動や悪い行動のあらゆる側面をオンラインに持ち込んだ。それが時には恐ろしく、大抵は複雑な結果をもたらしている」と前出のケラー氏は指摘する。「だが今や学識者やワシントンの一部の人々は、この一つの小さな法律を改正することで、その全てにわれわれが対処できると確信するに至った」

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