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Wednesday, February 24, 2021

激化する「偽の香水」を巡る闘いと、テクノロジーで対抗する高級ブランド - WIRED.jp

高級ブランドによる香水の市場は、いまや120億ドル(1兆2,700億円)規模にまで成長した。一方で、「偽造された香り」という新たな課題にも直面している。

ブランド各社はずっと前から、質の悪い偽物を売ろうとする業者に対抗し続けてきた。ひと目でそれとわかるパッケージと特徴的なボトルの形状まで盗用するような連中だ。ところがテクノロジーの進歩によって、高級ブランドならではの有名な香りを「よく似た香りの香水」として模倣する動きが出始めている。

こうした偽の香水の市場も、高級香水の市場と同じように発展を続けている。2017年から18年の間に、化粧品と香水を含む偽のボディケア商品は、英国だけで220万点も押収されている。経済協力開発機構(OECD)の推計によると、英国に輸入された偽造商品は13年の93億ポンド(約1兆3,600億円)から急増し、16年には136億ポンド(約1兆9,900億円)にまでなった。これは正規品の輸入額の3%に相当する額となっている。

知的財産保護のための非営利団体「Anti-Counterfeiting Group(ACG)」事務局長のフィル・ルイスは、「世界中の企業や消費者、経済すべてが偽造による“攻撃”を受けています」と語る。「英国は欧州のなかでも、これらの悪質な偽造の被害を最も大きく受けている国のひとつです。偽物の多くには危険な毒素や安定剤が含まれています。さらに、4億ポンド(約586億円)を超える売り上げが失われ、それらは国際的な犯罪集団の手に渡っています。犯罪者たちはそうやって得た利益を基に、人や麻薬、武器など、ほかのかたちの違法な取引をしているのです」

容易ではない偽物との闘い

高級香水メーカー各社にとって、この闘いは容易なものではない。偽物の高級ハンドバッグなどと比べると、偽の香りは特定が非常に難しいだけでなく、ほとんどの国では香りを知的財産として保護する仕組みが存在しないのだ。ただし、玩具メーカーのハズブロは、人気商品の安全な小麦粘土「プレイ・ドー」の「特徴的な匂い」で、米特許商標庁から商標登録を認められている。

知的財産として保護する仕組みが存在しないのは、香水の複雑な性質によるものだ。それぞれの香りは「ノート」と呼ばれる要素から構成されている。トップノート、ミドルノート、ベースノートがあり、香りが残る時間がそれぞれ異なる。

このうちトップノートは、香水をつけた人が第一印象として感じる香りだ。ミドルノートは周囲の人が感じる香りで、ベースノートはその香水の全体的な基礎となる香りである。香水をつけた人の肌によって特定の香りが変化することもあるという事実も、問題をさらに複雑にしている。

この問題に対処しようとする欧州の香水メーカー各社は、自社の香りを守るべく20年ほど前から法廷で争ってきた。2006年にはロレアルが、人気のフレグランス製品「ランコム トレゾァ」「ランコム ミ・ラ・ク」「キャシャレル アナイスアナイス」「キャシャレル ノア」によく似た香りをつくったとして、ベルギーのBellure(ベリュール)を著作権侵害で訴えるという画期的な裁判があった。

裁判所は、ロレアルの香りの侵害に当たるという判決を下し、ベリュールに損害賠償を命じた。しかし、香りが著作権侵害の対象になるという概念は、その後の上告審で却下された。裁判所の結論は、香水の製造は技術的知識のみの適用によるものであり、香水の要素をまとめ上げた人物の心を表現するものではないことから、著作権保護の対象とはならない──というものだった。

裁判での前進

一方で香りの保護に関しては、その後いくつかの前進がみられた。2年後の08年にはロレアルの子会社であるランコムが、同社のフレグランス製品のひとつの著作権をオランダのKecofa(ケコファ)が侵害したと訴えて勝利を手にしている。

ランコムが用いた手法は、成分を化学的に分離する方法であるガスクロマトグラフィー分析を使って、同社の香水の香りを形成する26の要素のうち24個が、ケコファの「よく似た香り」の製品に使われていることを証明するというものだった。

さらに裁判所は、ランコムの香水に関して著作権保護の対象にできるという判決も下した。香水は人間の感覚によって認識できる香りを放つ一定の物質であり、オランダの法律の下で著作権で保護されるべき「作品」とみなすべきであることは十分に明白としたのだ。

この判決により、ロレアルの訴訟では却下された「化学分析手法」の信憑性が高まった。香水の化学組成が類似することによって類似の香りが生じる場合は、著作権侵害になる可能性があることが示されたからだ。

そして19年には、グッチをはじめとする有名な高級香水メーカー各社が、スペインのEquivalenza(エキヴァレンサ)を相手取った裁判で、同じ手法を使って同様の勝利を勝ち取った。

皮肉にも「同等性」を意味する社名をもつエキヴァレンサは、香りを模倣した複数の製品を販売していたが、3つの争点のすべてで有罪となった。元の香水の違法なコピー、不正競争、そして企業の評判の濫用である。

ブロックチェーンによる対抗策も

これらの前進があったとはいえ、偽造をやめさせることは容易ではない。

クリエイティヴ産業(知的財産権を有した生産物の生産にかかわる産業)を専門に扱うロンドンの法律事務所Crefoviの共同設立者であるアナベル・ゴーベルティは、偽造をやめさせるのは非常に難しいと指摘する。各ブランドは流通を通じて偽造者たちと闘うことはできるが、問題の規模や、偽の香りという企てが短期的なものであるという性質があるからだ。

「ブランドのオーナーたちは、自社の香水のボトルが価格やサーヴィスレヴェルなどで一定の基準を満たす、贅沢な雰囲気がある場所でのみ販売されるような流通システムを確立できます。つまり、トム フォードやシャネル、プラダなどの香水が露天やeBay、Alibabaなどで売られている場合は、(それが本物であれ偽物であれ)ブランド側は措置を講じることができるのです」と、ゴーベルティは指摘する。

「LVMHがパリで偽造品を追跡したときは、該当するすべての商品を押収できる裁判所命令を得て、偽造品を売っていた露天商全員がパリの裁判所で有罪になりました」と、ゴーベルティは説明する。「問題は、これらの人々が住所不定であり、多くは銀行口座をもっていないことから、できることはあまり多くないという点です。つまり、一掃するのは非常に困難なのです」

LVMHは、ルイ・ヴィトンやディオール、フェンディやジバンシィなど、数多くの高級ブランドを抱えている。多くの困難があることを認識したLVMHでは、そこから偽造品との闘いに役立つテクノロジーに目を向けるようになった。

LVMHでは現在、偽造防止のための法的措置に向けて60人の弁護士を雇用し、年間1,700万ドル(約18億円)を費やしている。さらに、「Aura」というブロックチェーンを用いたツールも開発している。このツールは、「Ethereum(イーサリアム)」のブロックチェーン技術をマイクロソフトのクラウドサーヴィス「Microsoft Azure」と組み合わせたものだ。

Auraの証明を受けた製品を購入するすべての人が、その製品の完全な履歴を見ることができる。原料や製造場所のほか、最初に販売された場所や、中古品としての購入がある場合はそれも記載される。「このプラットフォームは、すべての高級ブランドに公開されています。仲介手数料はありません。ですから、このテクノロジーがもつ非常に大きな可能性から、誰もが利益を得ることができるのです」と、LVMHの広報担当者は説明する。

盗む側の技術も進歩

これは偽造との闘いで利用されている数多くのテクノロジーの進歩のひとつだ。高級ブランド各社は、新しい手法の採用も進めている。例えば、製品の安全性を高めるためのRFIDタグやホログラムのほか、電波の波形を利用して物質の特性を検出するテラヘルツ分光法と呼ばれる手法も注目されている。

一方で残念ながら、盗む側の手法もテクノロジーによって進歩しつつある。インターネットは、高い知識を身に付けネットワークでつながった世代による偽造が増加する一因となっている。こうした偽造者たちは適応が速く、従来のルートを通じた販売よりも検出や防止が困難なさまざまな方法で製品を流通させることができる。

結局のところ誰が勝利するのかはまだわからないが、香水業界は偽造との臨戦態勢を整えている。シャネルは「この取り組みに相当な財源と人材資源を投入する」と説明しているが、この先もかなりの争いが待ち構えている。

なにしろ、偽物の取引総額の推計は約4.5兆ドル(約477兆円)にも上る。そして偽の高級品の売買は、そのうち60~70%を占めているのだ。

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