かつてアマゾン・ドット・コムは書籍のみを販売し、アップルはコンピューターを売り、グーグルは単なる検索エンジンにすぎなかった。そうした日々はとっくに過ぎ去り、この3社にマイクロソフトとフェイスブックを加えた5社はIT(情報技術)業界の巨人と化した。
巨大IT企業はインターネット利用者の生活に過度な影響力を持ちすぎていると批判する声もある。企業はそうした意見に対し、互いを含む大きな競争に直面しており、生き残るためにはイノベーション(技術革新)を続ける必要があるとしばしば反論している。
現実は以下の図が示す通り、巨大IT企業が互いに連携したり競争したりすることで、その影響力の大きさと性質が形作られている。自らの「王朝」を構築・保護するため、それぞれが互いの領域に進出を加速するにつれ、そうした相互作用は進化している。
巨大IT企業は、その規模とリソースを利用して小規模な企業や人材を獲得、製品ラインやサービスを拡大することで、競争の脅威から自らを守るとともに新たな戦線を開いている。
そうした成長によってパートナーへの依存は減ったものの、勢力図の変化に伴い一部で激しいライバル関係が生まれた。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)とアップルのティム・クックCEOは、データ保護やアプリストアの手数料などの問題を巡って非難合戦を繰り広げている。グーグルとマイクロソフトの幹部は最近、ニュースコンテンツのホスティングと配信元への支払いに関わる慣行を巡って辛辣(しんらつ)な言葉を交わしている。
5社の関係は完全にほつれているわけではない。ソフトウエア開発からIT業界の権益擁護に至るまで、あらゆる面で引き続き協力している。互いのプラットフォームでアプリや製品を販売し合うのはもちろんのこと、規制当局に目をつけられるほど互いの事業が深く絡み合っている場合もある。
以下の図は、時価総額で上位5社に入る米IT企業が成功を収める上で、いかに互いに依存しつつ競争し合っているかを端的に表したものだ。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、5社がソフトウエア、ハードウエア、インターネットサービス分野で持つ一定の関係を分類した。5社は巨大で業種は多岐にわたり、分類は競争力学のあらゆるニュアンスを反映していない場合もある。
特定の分野で主に提携関係にある場合は「友人(フレンズ)」、おおむねライバル関係にある場合は「敵(エネミー)」、競争と連携双方の関係を持つ場合は「友人かつ敵(フレネミー)」とそれぞれ分類した。
この記事について5社はいずれもコメントを差し控えた。
クラウドコンピューティング
クラウドコンピューティング分野では、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が最大手であることに依然変わりはないが、マイクロソフトとグーグルはその市場に食い込もうとしている。フェイスブックとアップルはウェブホスティングサービスを他社に販売はしていないが、アップルは自社のクラウドストレージサービス「iCloud(アイクラウド)」のデータの一部をAWSとグーグルクラウドの双方で保存している。
デジタル広告
グーグルとフェイスブックはデジタル広告分野で圧倒的地位を占めているが、アマゾン、マイクロソフト、アップルも同ビジネスを伸ばしている。アマゾンとグーグルはデジタル広告ネットワークで競っているものの、アマゾンは特定のグーグル検索キーワードについて広告枠を購入し、グーグルはアマゾンの外部出店者の大部分にとって最大のウェブトラフィック源となっている。フェイスブックとグーグル、グーグルとアップルが個別に結んだオンライン広告契約は、それぞれ米国の州司法長官団と司法省による訴訟で調査を受けている。
グーグルはこれまで、フェイスブックとアップルと交わした具体的な取引条件についてコメントを控えている。
グーグルは、州司法長官団が昨年申し立てた苦情について、フェイスブックとの合意を正確に受け取っていないと述べた。同社はこれとは別に、司法省が起こした訴訟についても批判し、アップルとのパートナーシップは他社がソフトウエア販売で交わすパートナーシップと変わらないと反論した。フェイスブックはグーグルとのパートナーシップについて、このような業界の提携は一般的なものであり、それが競争を阻害するとの主張は根拠がないと述べた。アップルはこれまでグーグルとのパートナーシップに関するコメントは控えている。
ニュース収集
インターネットプラットフォームは長年、ユーザーを引きつける手段の一つとしてニュースに関心を持ってきた。こうした事実に加え、規制当局からのプレッシャーを受け、ニュース会社にコンテンツ配信料の支払いを申し出るプラットフォームも出ている。マイクロソフトとグーグルは、ニュース会社に対する姿勢を巡って非難の応酬を繰り広げている。フェイスブックとグーグルは、ニュースコンテンツに3年間で10億ドルを支払う計画を個別に発表している。アップルは定額制のニュース配信サービス「アップル・ニュース・プラス」を提供しており、マイクロソフトはブラウザーやアプリで利用可能なニュース配信サービスを手掛けている。
ビデオゲームサービス
5社はゲーム販売やハードウエア・周辺機器の開発を含め、合わせて数十億ドルをビデオゲーム業界に投じている。各社は現在、定額制または無料でプレーできるゲームサービスを運営している。「アップルアーケード」を手掛けるアップルは、アップストア内のクラウドゲームサービスの販売に制限を課し、フェイスブックやマイクロソフト、グーグルを憤慨させた。ライバルの販売チャンネルを利用しているサービスもある。グーグルの「スタディア」はアマゾンの「ファイア」テレビでプレーでき、アマゾンの「ルナ」用のデジタルコントローラーはグーグルプレイからダウンロードできる。
ソーシャルネットワークとライブストリーミング
フェイスブックは世界最大級のソーシャルネットワークを保有しているが、電子商取引(EC)やライブストリーミングなどの機能を加え、競争関係を一変させた。グーグルのユーチューブとアマゾンのツイッチはライブストリーミングで争っているが、両社は自社のアプリを互いのアプリストアで販売することで恩恵も得ている。マイクロソフト傘下の「リンクトイン」は、ソーシャルメディアでは4社以外と競っているが、求人広告収入ではフェイスブックやグーグルと争っている。
アプリストア
消費者がインターネット経由でソフトウエアを入手する上で不可欠な玄関口となっているアプリホスティング・プラットフォームは、大手IT企業の影響力を巡る議論において、ますます争点になりつつある。アップルとグーグルは最大のモバイルアプリ・ストアを運営しているが、自社のアプリを互いのプラットフォームを介して販売してもいる。フェイスブックと、ウィンドウズ端末やビデオゲーム機「Xbox(エックスボックス)」向けのアプリストアを運営するマイクロソフトは、アップルのアプリストアの規約を巡って同社と対立している。
法人向けソフトウエア
法人向けのソフトウエア販売市場は過去20年で爆発的に伸び、フェイスブックなども含めた大手IT企業が参入した。グーグルとマイクロソフトは電子メールやカレンダー、文書作成など幅広い法人向け製品で争っている。
メッセージング
5社は個人や法人向けに競合するメッセージング製品を提供しているが、それを消費者に届ける上ではライバルのプラットフォームでの配信に依存してもいる。「ワッツアップ」と「メッセンジャー」を通じてメッセージサービスを提供しているフェイスブックのザッカーバーグCEOは、アップルをメッセージング分野のライバルとみなしているほか、他の戦線でも同社が突きつける競争上の脅威が高まっていると述べている。
ノートパソコンとタブレット
マイクロソフトとグーグルは、タブレットとノートパソコンの境界をあいまいにしつつある企業の一角を占めている。アマゾンはノートパソコンを開発していないが(ただし、自社のECサイトで販売はしている)、タブレット「ファイア」でアップルやマイクロソフト、グーグルと競争している。一方で、ファイアの基本ソフト(OS)はグーグルの「アンドロイド」をベースに開発している。
スマートスピーカーとビデオディスプレー
スマートスピーカーとビデオディスプレーは、世界の数百万台の機器にデジタルアシスタント技術を組み込む後押しをした。アップル、アマゾン、グーグルは音声操作式スピーカーやディスプレーの販売で熾烈(しれつ)な争いを演じている。フェイスブックのスマートディスプレー「ポータル」もこの分野で競っているが、アマゾンの音声アシスタント「アレクサ」が搭載されている。一方、アマゾンも自社のECサイトでポータルを販売している。
スマートウオッチと活動量計
グーグルはフィットビットを買収し、スマートウオッチと活動量計の販売市場に参入したが、このカテゴリーではアップルが相当なシェアを持つほか、アマゾンも「Halo(ハロ)」で攻勢をかけている。だがフィットビットの買収によって、アマゾンと一部協力することにもなった。フィットビットの製品をアマゾンのECプラットフォームで販売し、同製品のアプリをアマゾンのアプリストアで提供しているほか、アレクサを一部のフィットビット製品に組み込んでいる。フェイスブックは、手首装着型の端末の開発に取り組んでおり、それをいずれは現在開発中のスマートメガネと同期できるようにする計画を明らかにしている。
スマートフォン
5社はいずれもスマートフォン向けのソフトウエアを開発しているが、端末を手掛けているのは3社だけ。アップルは3社の中で端末開発に最も長く継続的に携わっている。アマゾンは「ファイア」フォンの販売を打ち切って以来、スマホ事業には参入していないが、自社のECサイトでグーグルの「ピクセル」とアップルの「iPhone(アイフォーン)」を販売している。マイクロソフトも数年前にスマホ事業から撤退したが、最近スマホとタブレットを兼ねた「サーフェス・デュオ」で再参入している。
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