虐待などの理由で児童養護施設などに入所した子どもにかかる費用(措置費用)について、2019年度に全国の児童相談所が保護者に請求した5割超にあたる約14億円が支払われていないことが読売新聞の調査でわかった。保護者の反発が主な理由で、未徴収分は自治体の負担となるが、指導の支障になるとして請求を見送る児相もあった。虐待が急増する中、児相が保護者への対応に苦慮している実態が浮かぶ。
児童福祉法に基づき、児相は虐待などを受けた疑いがある子どもを原則2か月以内で一時保護する。その間に家庭に戻せないと判断すれば、一時保護後、児童養護施設や乳児院、里親の元に預ける措置をし、保護者への指導を続ける。
一時保護中の費用は全額公費だが、預け先での食費や教育費などの措置費用は、保護者が生活保護受給者である場合など以外は所得に応じて児相が徴収する。月数万円以下が多い。
調査は、今年2月時点で児相を持つ都道府県と政令市、中核市、特別区の全73自治体を対象に実施。19年度の保護者への請求額は、回答しなかった神奈川県と児相開設前の自治体を除く69自治体で計26億5500万円。年度末で13億7900万円が支払われておらず、未徴収率は52%に上った。
20年度分は50自治体が最新分を回答し、請求額11億6100万円に対し、6億5200万円が未納で、未徴収率は56%だった。
措置費用は保護者負担分以外を国と自治体が折半する。保護者の滞納分は5年で請求時効となり、全額が自治体負担となる。
経済的な事情で滞納するケースもあるが、多くは保護者が措置に反発していることが理由で、27自治体が「請求が保護者との関係に悪影響を与えている」と回答。兵庫、愛知両県など15自治体は内規などを定め、措置に同意が得られない場合は請求していなかった。
厚生労働省によると、措置費用のうち国負担分は今年度予算で1355億円に上り、5年前から215億円増えている。同省の有識者会議は4月「実態を調査し保護者に負担を求めないことについて、社会的な合意が得られるか慎重に検討すべきだ」との提言をまとめ、厚労省は「提言を踏まえて対応を検討したい」としている。
◇児童養護施設
家庭での養育が難しい原則18歳未満の子どもが共同生活を送る。社会福祉法人などが運営している。2019年3月末時点で約2万4900人が入所。入所児童の65%が虐待経験があった。他に保護者の死亡や病気などで入所することがある。受け入れ先は他に里親や乳児院、ファミリーホームなどがあり、児童養護施設と合わせて4万人超が親元を離れて暮らしている。
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