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Saturday, August 14, 2021

アカウミガメの卵 移植か見守りか 絶滅危惧種 悩む保護団体 - 毎日新聞 - 毎日新聞

アカウミガメが上陸した跡(真ん中付近の一直線の線)が残る砂浜に立つ桑田守さん。護岸の手前に産卵の跡があった=宮崎県日南市の風田・平山海岸で2021年6月2日午後1時46分、杣谷健太撮影 拡大
アカウミガメが上陸した跡(真ん中付近の一直線の線)が残る砂浜に立つ桑田守さん。護岸の手前に産卵の跡があった=宮崎県日南市の風田・平山海岸で2021年6月2日午後1時46分、杣谷健太撮影

 宮崎県日南市の海岸で、絶滅の恐れがあるアカウミガメの卵を保護する活動を続けてきた団体が、今年の産卵期は卵を安全な場所に移す取り組みを見送った。卵を移植することでふ化する確率が下がるのが理由だ。ただ防波堤整備などで砂浜は年々減少しており、母ガメが産み落とした場所のままだと卵が波にさらわれるリスクもあり、関係者は葛藤を抱えている。

宮崎海岸で産卵したアカウミガメ=宮崎野生動物研究会提供 拡大
宮崎海岸で産卵したアカウミガメ=宮崎野生動物研究会提供

 宮崎県南部の風田(かぜだ)・平山海岸(日南市)を訪れると、浜に上がってきたアカウミガメの足跡が砂浜にくっきりと残っていた。足跡は満潮線から先に延び、コンクリート製の護岸の手前に産卵の跡があった。「護岸までは満潮線から5~6メートルしかない。波に流されなければいいが……」。案内してくれた日南市野生動物研究会長の桑田守さん(71)が、産卵の跡を指さしながら語った。

風田・平山海岸 拡大
風田・平山海岸

 桑田さんは毎年産卵期の5~8月、砂浜でウミガメの卵を見つけると護岸より高い場所に設置したふ化場に移植する活動を続けてきた。ふ化場は動物などに狙われないようネットで覆われており、卵からふ化した子ガメは海に放流する。だが今年は毎朝2時間かけて砂浜を見守り、ウミガメが上陸、産卵しているかなどを確認するだけにとどめている。

 移植を見送ったのは、同研究会を含め県内でアカウミガメの保護活動に取り組む4団体が産卵期に入る前の4月に宮崎県庁で開いた協議会がきっかけだった。協議会では宮崎野生動物研究会(宮崎市)が2017~19年に宮崎市と同県新富町で約300個の卵を調査したところ、自然状態のままのふ化率が75%だったのに対し、移植した卵のふ化率は55%にとどまったと報告した。

動物などに狙われないようにネットで覆われたふ化場。今年は使用していない=宮崎県日南市で2021年6月2日午後2時9分、杣谷健太撮影 拡大
動物などに狙われないようにネットで覆われたふ化場。今年は使用していない=宮崎県日南市で2021年6月2日午後2時9分、杣谷健太撮影

 研究会の岩本俊孝理事長(73)によると、移植によってふ化率が1~2割程度下がることは国内外で20年ほど前から報告されていた。環境省と日本ウミガメ協議会が06年に作成した「ウミガメ保護ハンドブック」も「産卵から数時間たつと移動の際の振動で胚が死にやすくなるため細心の注意が必要」とし「移植は他に保護する手立てがない場合にのみ選択されるべき」だと指摘。宮崎野生動物研究会も18年ごろから徐々に移植を減らし、20年からは基本的に移植をしていないという。

 県庁での議論を踏まえ、今年の移植を見送った日南市野生動物研究会の桑田さんも、ウミガメ保護を巡る最近の状況は把握していた。それでも昨年まで移植を続けてきたのは、年々砂浜が狭くなり、卵が波にさらわれる懸念が拭えないからだ。実際、今月8日に鹿児島県に上陸した台風9号が過ぎ去った9日、桑田さんが産卵場所を確認すると、2カ所で目印のくいがなくなっていた。高波で卵も流された可能性が高いという。

 砂浜の減少は、河川整備や砂利採取などにより、河川からの砂の供給量が減ったり、沿岸に防波堤などの構造物を設置することで砂が移動しなくなったりすることで起こる。宮崎県内で特に砂浜の減少が顕著なのは、アカウミガメの産卵が盛んな宮崎海岸(宮崎市、約12キロ)だ。国土交通省宮崎河川国道事務所によると、場所によっては波打ち際から陸までの距離が12年までの50年間で平均94メートルから22メートルにまで減少した。

 問題は移植によるふ化率低下のリスクと、波にさらわれるリスクのどちらが高いかだ。日南市野生動物研究会と共にウミガメの保護に取り組む日南市教育委員会生涯学習課は「今年産卵した卵のデータを取り、確実に卵が流される場所については移植することにし、自然状態でも無事にふ化するようなら今後も自然のまま見守りたい」と話す。

護岸のすぐ手前の産卵場所を示す桑田守さん。目印のくいが立てられている=宮崎県日南市の風田・平山海岸で2021年6月2日午後1時44分、杣谷健太撮影 拡大
護岸のすぐ手前の産卵場所を示す桑田守さん。目印のくいが立てられている=宮崎県日南市の風田・平山海岸で2021年6月2日午後1時44分、杣谷健太撮影

 40年近くウミガメと海岸を見てきた桑田さんは「自然といっても自然じゃないのが今の状態」と砂浜の姿を嘆く。国際ウミガメ学会元会長でウミガメ研究者の松沢慶将(よしまさ)・日本ウミガメ協議会長は「移植は対症療法にすぎない。コンクリートで固めていくと、いずれはウミガメが来なくなる。本当にそれでいいのか。地域住民や行政などが真剣に議論し、良い方法を模索していくべきではないか」と問いかける。

 宮崎県内では失われた砂浜を取り戻す取り組みも始まっている。国土交通省は浸食の激しい宮崎海岸で08年以降、50メートルの砂幅確保を目標に、人工的に砂を入れる「養浜(ようひん)」や、海に突き出すように堤防を設置することで、養浜した砂を逃がさないようにするための突堤の整備、砂丘が崩れないように巨大な砂袋「サンドパック」を砂浜に埋める埋設護岸工事などを進めている。

 砂浜を広げることで、砂浜の後背地の人家や道路に波が届くのを防ぐのが主な目的だが、同時にアカウミガメの上陸・産卵数や海域・陸域の自然環境も毎年調査し、専門家などで作る検討委員会などで検証。年に2回程度、市民から自然環境や工事についての意見や要望を聞く「市民談義所」も開いており、行政・市民・専門家が一体となって浸食対策が進められている。

 宮崎県の「日向灘沿岸海岸保全基本計画」(15年)によると、日向灘沿岸にある県内79の海岸ごとに、同様に砂浜の浸食対策や既存設備の整備方針を決定。後背地への影響に応じて優先順位を付け、整備を進める計画だ。日南市野生動物研究会の桑田守さんが保護活動を続ける風田・平山海岸についても「アカウミガメの上陸・産卵の環境保全」に配慮した上で、養浜などを実施するとしている。ただ現状では住宅など後背地への影響が小さく、「住民からの切実な要望がない」(宮崎県)として整備は行われていない。【杣谷健太】

アカウミガメ

 日本は世界有数の産卵地。鹿児島県の屋久島をはじめとする南九州を中心に、西日本の太平洋側の広い範囲で上陸・産卵する。宮崎県によると、2020年は宮崎、延岡、日南、新富など8市町の海岸で、計1297回の上陸、875回の産卵が確認された。環境省のレッドリストで、近い将来に野生での絶滅の危険性が高い「絶滅危惧ⅠB類」に指定されている。

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