厚生労働省によると日本の累計人工妊娠中絶数は14万5340件(2020年)、一日に換算すると約400件になる。現在、日本で中絶手術を受ける場合、自費診療でかかる費用は約10~20万円。そして、多くの病院では「掻爬(そうは)法」という金属製の器具を子宮内に挿入し、かき出すという方法が取られている。 「この掻爬法は、胎児心拍が止まってしまった流産でも行われることがあります。流産は全妊娠の約15%に生じます。自然排出する場合もありますが、手術を受ける場合はこの掻爬法が行われることが多く、そう考えると日本では中絶や流産で掻爬法を経験したことのある女性は想像以上に多いことが推測できます」 「ですが、この掻爬法は国際スタンダードなものではありません。多くの国で『時代遅れで行うべきではない』手術として認識されていて、WHOからは勧告も受けています。グローバルでは『経口中絶薬』を用いることが多く、ほかに『真空吸引法』という方法が推奨されています」 「ですが、こういった他国では当たり前の治療法が日本では行われず、女性の体に負担がかかる古い方法をいつまでも続けているのです」と説明するのは、Safe Abortion(安全な中絶・流産)の情報発信を行う「SAJP(Safe Abortion Japan Project)」代表で産婦人科医の遠見才希子医師だ。 WHO(世界保健機関)では、「安全な中絶へのアクセスは、女性の健康と権利を保護する」としており、また「女性や医療従事者を差別やスティグマから保護するため、中絶は公共サービスまたは公的資金を受けた非営利サービスとして医療保険システムに組み込まなければならない」と提言している。実際、現在約30カ国が公費で賄っており、中絶が無料という国もある。ところが日本では中絶は罪、自己責任であるという空気がいまだに存在する。 「手術法が遅れているだけでなく、他国に比べて費用も高額です。未婚であれば相手男性の同意は母体保護法上、不要にもかかわらず、同意を求められます。そういったいくつものハードルから中絶することができず、新生児遺棄につながる事件が最近もニュースになっています。しかも多くの日本人女性が、自分たちの国の中絶や流産の方法の現状を知らされていないのです」 今年4月、「経口中絶薬が年内にも承認申請の見通し」と報道された。しかし価格や投与法、入院管理になるのかといった運用面を巡り、多くの課題が残されたままだ。 「病院経営の観点から手術と同等の価格になる可能性がある、中絶完了が確認されるまで入院する、といった報道が出ています。他国では無料や入手しやすい価格で提供されるものが、手術と同等の価格や入院管理があったのでは、女性への負担は軽減しません。科学的根拠や国際的推奨に基づく運用がなされるのか、懸念があります」 「また、安全性を心配する声もありますが、海外では1988年から使用され、現在77カ国で認可されています。ミフェプリストンとミソプロストールの2剤併用が推奨され、平均価格は約740円です。ミソプロストールはもともと胃潰瘍・十二指腸潰瘍の治療薬として開発され、その後経口中絶薬としての効果が認められました。日本でも胃潰瘍・十二指腸潰瘍のみで治療薬適応があり、1錠約30円で提供されているものなのです」 他の治療では安価に使用されるのに経口中絶薬としては認可されず、認可されても高額になる可能性がある――。安全な中絶は、自分の体のことを自分で決められるSRHR(性と生殖に関する健康と権利)である。遠見医師は、多くの人たちにこの現状を知ってほしいと発信を続ける。 ※英製薬会社ラインファーマは、経口妊娠中絶薬について、2021年12月下旬に厚生労働省に製造販売の承認申請をする方針を固めた。(2021年11月28日)
Text: Manabi Ito From Harper's BAZAAR December 2021
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