日本では桜が綺麗に咲いているであろうこの季節。コロンビアの私が住んでいる地域は本格的に雨季に入り、毎日たくさんの雨が降る時期になりました。
一日中どんよりと曇空で昼から必ずと言っていいほど雨が降る毎日にメンタルは削られていく一方ですが、雨季というのはコーヒーの収穫期でもあるためコーヒー農家の私たちにとっては最も忙しい時期でもあるのです。
雨が降る前になるべく仕事を進めなくてはといつもの様に朝からバタバタしていたある日。うちで働いてくれているジェイソンが何かを大事そうに抱え山を登ってきました。
「地面で鳴きながら這ってたんだ。はじめ見た時は妖怪かと思ったよ。」と笑いながら見せてくれた手の中には小さなお猿さんの赤ちゃんが。抱かせてもらうとその長い手足の指で洋服を一生懸命掴もうとしてきます。きっとお母さんの背中に掴まっていたところが、何かの拍子で落ちてしまったのでしょう。
ジェイソンと猿(筆者撮影)
もしかしたらまだ親サルが近くにいるかもしれないとジェイソンに再度落ちていた場所まで引き返してもらいましたが、親サルを見つけることはできませんでした。
インターネットで調べたところ、猿の赤ちゃんはヨザルの仲間で英語ではGray-bellied night monkeyという名前なのだそう。夜行性で南米の森林に生息するそうですが、近年は生息地の破壊や医薬品の実験などに使われるなどして頭数が減少しており、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは絶滅危惧II類(危急)に分類されているそうです。
©️iStock - JanMengr
メデジンに住む日本人の友人に写真を送ったところこう言った野生動物を保護する団体で働いている知り合いがいるとのことで、紹介してもらうことに。間もなくして県の自然保護を行っている団体Corantioquiaのダビッドさんから電話がかかってきました。Corantioquiaはアンティオキア県が運営している団体で、県内の自然や動物を保護する活動を主に行っています。ダビットさんに保護時の状況や現在の様子などを伝え、所属の獣医さんからは食事のアドバイスなどを受けました。ヨザルは名前の通り夜行性のため、明るい時間は活動しません。暗くなったら親サルを探しに行ってみて、もし見つからなかったら翌朝Corantioquiaが保護しにくるという話に落ち着き電話を切りました。
ということで、この日1日は私が母親がわりになることに。猿の赤ちゃんは映画「猿の惑星」の登場人物にちなんでセサルと呼ぶことにしました。
牛乳を飲んでご機嫌のセサル(筆者撮影)
私たちの家には3匹の猫もいるため、仕事中にセサルを一人ぼっちにすることはできません。考えた末ウエストポーチにセサルを入れ、いつも通りに作業を行うことにしました。作業中うんともすんとも鳴かないセサル。10分起きにウエストポーチを開けて無事を確認する私の心配とは裏腹に、セサルは終始気持ちよさそうにすやすや寝ていました。
外が暗くなってきてそろそろ親を探しに行こうかと思っていた矢先、バケツをひっくり返した様な雨が降り始めました。雨は一晩中降り続き、セサルの家族を探しに行くことは困難な状態に。親に返してあげるのが彼にとって最善だと考えていたため、とても心が痛みましたがその晩の家族捜索作業は諦めざるを得ませんでした。
暗くなり周りがはっきり見える様になったのか、急に苦痛な表情を浮かべて鳴き始めたセサル。きっと親が恋しいのでしょう。何とかしてあげたいけど何もしてあげられないことに無力感とやるせなさでいっぱいになった夜でした。
(筆者撮影)
雨は翌朝まで降り続き、止んだ頃にはあたりはすっかり明るくなってしまっていました。Corantioquiaの職員からこちらに向かうという連絡を受け、最後のチャンスだとセサルを発見した場所まで連れて行くことに。
力強く鳴いたセサルですが近くに流れる川が一晩中降った雨で増水しており、せっかくの鳴き声はかき消されてしまいます。30分ほど遠くから見守っていましたが、家族が現れる気配がなかったためセサルは保護してもらうことにしました。
(筆者撮影)
保護されるセサル(筆者撮影)
生物の多様性が豊かな国コロンビアではCorantioquiaが行っている様な野生動物保護活動に非常に力を入れています。今年1月と2月の2ヶ月間の間に国内で2,362匹の動物がリハビリを経て自然に返されましたが、その中の525匹は密輸をされそうになったところを保護された動物たち。セサルの様な親とはぐれた動物だけではなく、こう言った密輸の被害にあった動物の保護もこういった団体が担っているのです。
セサルは現在、獣医の元で保護され、もう少し大きくなったらリハビリ施設でトレーニングを受け再び自然に戻されます。どこにいるのか、どこに放されるのかなどの情報は今後受け取ることはできないそうで、セサルの今後を知ることはできません。今後、こう言ったニュースを見るたびにこの数字の中にセサルが入っているのかな?と彼に想いを馳せることになりそうです。
からの記事と詳細 ( 猿を拾いました。南米のヨザル保護日記 - Newsweekjapan )
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