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Saturday, July 16, 2022

焦点:米の中絶判断が世界に波紋、妊婦の検索データ保護に懸念も - ロイター (Reuters Japan)

[バンコク/メキシコ市 12日 トムソン・ロイター財団] - 人工妊娠中絶が全面的に禁止されているフィリピンでは、中絶を希望する女性にとって頼みの綱となる情報源はインターネットしかない。だが、米連邦最高裁判所が6月、中絶を憲法上の権利と認める1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆して以来、ネット上で「中絶」と入力することを恐れる人が出てくることを活動家らは懸念している。

 人工妊娠中絶が全面的に禁止されているフィリピンでは、中絶を希望する女性にとって頼みの綱となる情報源はインターネットしかない。写真は「世界人口デー」を記念する啓発イベントで、性と生殖に関するカウンセリングを受ける女性。フィリピンのケソン市で2009年7月11日撮影(2022年 ロイター/John Javellana)

ローマカトリックの信仰が主流であるフィリピンでは人工妊娠中絶は一般に「裏」の世界だ。女性らはフェイスブックやテレグラム、シグナルといったメッセージングアプリ上のチャットグループで、ハンドルネームを使って中絶薬を入手し、非合法で人工妊娠中絶の処置を行う医師に連絡を取っている。

だが、フィリピンからチリに至るまで、人工妊娠中絶の権利を求める活動家らは、米国における中絶禁止の動きを受け、中絶を希望する女性らがネットの検索履歴や位置情報を通じて追跡される懸念が高まっていると言う。

民間団体「フィリピン安全な中絶のための啓発ネットワーク」で広報担当者を務めるクララ・パディラ弁護士は「米国の動向を見ると、フィリピンの女性らがネット上で情報を求めることをさらに恐れるようになり、結果的に、今以上に危険な中絶が増えることにつながりはしないか」と語る。

パディラ氏はトムソン・ロイター財団の取材に対し「フィリピンでは人工妊娠中絶が非常に不名誉なこととされ、非常に危険であるため、女性は支援と助言を求めてネットを利用する。彼女らはネットの安全な利用を求めている」と語り、国内の警察官を対象としたジェンダー啓発研修の中でも、人工妊娠中絶を理由に女性を摘発しないよう呼びかけているという。

フィリピンには、避妊具や避妊薬を利用できない女性も多い。状況を問わず人工妊娠中絶を禁じる世界有数の厳格な法律のため、中絶を行えば最高6年の禁錮刑となる可能性がある。

これまでのところ、フィリピンでは中絶希望者がネット上での行動を根拠に訴追された例はない、とパディラ氏は言う。

同氏の説明によれば、法律により個人情報は保護されており、プラットフォーム事業者から情報を収集するにはサイバー犯罪捜査令状が必要になるという。

だが、そうした法制が整っていない国も多く、また米国における中絶禁止に向けた変化もあって、世界各国では、妊娠関連情報の記録に使われるスマホの健康管理アプリの安全性について議論が活発化している。

医学専門誌「BMJ」(旧ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)が2019年に行った調査では、こうしたアプリが、消費者の個人情報をソーシャルメディア企業やデータ販売業者、広告会社を含む第三者に日常的に提供していることが判明している。

<データ漏洩(ろうえい)>

妊娠情報を管理する妊活アプリの利用はアジア各国で急速に増加しており、調査会社スタティスタでは、この種のアプリのアジアでの売り上げが2022年に1億ドル近くに達すると推測している。

だが多くのアジア諸国には、しっかりしたデータ保護法制が存在しない。インドもそうした国の1つだ。2019年には妊活アプリ「マヤ」が妊娠に関する利用者の健康データを、ターゲット広告のためにフェイスブックに提供していたと、デジタル権利擁護団体プライバシー・インターナショナルが報告した。

当時、「マヤ」のダウンロード実績は約700万回だったが、同アプリでは「個人の識別が可能な情報や、医療情報」は第三者に一切提供していないとしていた。

その後のプライバシーポリシー変更の有無についてアプリ提供元のシローズにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

デリーで活動する啓発団体インターネット・フリーダム財団の顧問弁護士であるアヌーシュカ・ジャイン氏によれば、インドにはデータ保護法が存在せず、個人情報の保護はアプリ任せだという。

「医療データ、それも特に妊娠に関する情報には高いレベルの保護が必要だ。だが、データ保護のあり方については、事実上、民間企業任せになっている」とジャイン氏は言う。

インドには「センシティブな個人情報」を保護する規則は存在するが、厳格には施行されておらず、政府や公的機関は対象外となっているとジャイン氏は語る。

ジャイン氏はさらに、これは憂慮すべき状況だと続ける。というのも、インドでは近年、連邦機関や州の機関が保持している膨大な数の女性の妊娠関連データについて、大規模な流出事件が複数回発生しているからだ。

仮想プライベートネットワーク(VPN)事業者のサーフシャークによれば、インドは昨年、世界でも最も多くのデータ漏洩が発生した国の1つだ。複数のデジタル権利擁護団体は、サイバーセキュリティーの脆弱性と、説明責任の欠如を物語っているとみる。

<データ保護の重要性>

また中南米では、生理周期管理アプリも広く利用されている。近年この地域では、世界でも最も厳格な中絶禁止ルールへの反対が拡大していることを受けて、規制を緩和した国も少数ながらある。

中南米諸国の幾つかはデータ保護法を定めており、ユーザーの同意を前提に個人情報の収集を許可している。

だがチリの非営利団体デレチョス・デジタレス(デジタルの権利)で責任者を務めるフアン・カルロス・ラーラ氏は、何を意味するか知らないままユーザーがデータ収集を許可してしまう場合も多いと指摘。集められたデータの利用方法についても、企業が完全に情報開示しているわけではないという。

「中南米では以前から、妊娠情報を扱う健康アプリでの個人情報収集について、懸念が持たれている」とラーラ氏は言う。「個人情報の不当な利用を規制するには、ルールだけでは不十分かもしれない」

国によって名称は異なるが、「カレンダリオ・ド・ペリオド(生理周期カレンダー)」と呼ばれるアプリがある。ブラジルのシンクタンク、コーディングライツが2018年に実施した調査では、このようなアプリは写真やファイルなど利用者データへのアクセス権限を持っているにもかかわらず、プライバシー保護条件を明示していないと指摘されている。

このアプリを提供するマイカレンダー社にプライバシーポリシー変更の有無について問い合わせたが、広報担当者からの回答はなかった。

ラーラ氏は、個人の医療サービス利用状況や妊娠に関する支援組織への接触、特定の薬品の購入といった情報を得るために、デジタル情報が追跡される可能性も憂慮しているという。

中絶希望者に対する追跡の例はまだ見られないが、「当局が企業にそうした情報の提供を要請するリスクは存在する。もっと危険なのは、当局が個人のデバイスにアクセスできるかもしれないということだ」とラーラ氏は言う。

同氏によれば、容疑の証拠を求めてモバイル機器やコンピューターを押収することは、中南米では珍しくない。

「だからこそ、制度として本格的な安全保護措置を導入し、当局が企業の管理するデータや、人々が所有するデバイスに勝手にアクセスできないようにすることが極めて重要になる」とラーラ氏は説明した。

(Rina Chandran記者、Diana Baptista記者 翻訳:エァクレーレン)

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