Pages

Wednesday, May 24, 2023

現状維持バイアスの克服で切り開かれる、医療データ利活用と医療 ... - DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

サマリー:個人情報保護法は個人の権利や利益の保護とデータの利活用促進の両立を目的とした法律である。ステークホルダーはその立法趣旨を踏まえ、「利活用」の方針を協働して打ち出すことが求められる。

医療データは最もセンシティブな個人情報であり、強すぎる規制が医療分野におけるデータ利活用を阻んでいるという意見をよく耳にする。しかしそれは、個人情報保護法を正しく理解できていないがゆえに、目に見えない幽霊を恐れているようなものだと、医療機器センター専務理事の中野壮陛氏は指摘する。

データの有効活用と革新的な医療機器開発の未来を切り拓くために何が必要なのか。デロイト トーマツ コンサルティングの立岡徹之氏、植木貴之氏の2人が、中野氏と語り合った。

データ利活用を前提としている個人情報保護法が、正しく理解されていない

植木 中野さんは、AI(人工知能)を活用した医療機器開発におけるデータ利用の実態と課題について、研究代表者として調査・分析され、その結果を2022年5月に公表されました(*1)。研究の結果、どのような課題が浮かび上がってきましたか。

*1 厚生労働科学研究費補助金 政策科学総合研究事業(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装事業)「AIを活用した医療機器の開発・研究におけるデータ利用の実態把握と課題抽出に資する研究」

中野 結論から言えば、「個人情報保護法」の趣旨や内容がよく理解されないまま、医療情報の活用に関わるステークホルダーや専門家がそれぞれの立場でばらばらな議論を行っているため、AI医療機器開発においてデータ利活用がなかなか進んでいないという課題があります。

 もともとの立法趣旨として、個人情報保護法は個人の権利や利益をきちんと保護しつつ、新たな産業の創出や豊かな国民生活のために個人データを有効に利活用していこうという目的を持っています。

 データをどれだけ効果的に活用できるかどうかで、これからの産業や社会が変わり、それは国力にも大きく影響します。個人情報保護法はその点をよく踏まえたうえで、つくられたものです。

 たとえば、2022年4月に施行された改正個人情報保護法では、企業内部でのデータ利活用促進のために、2017年施行の改正法で導入された「匿名加工情報」に加えて、「仮名加工情報」の制度が新たに導入されました。データ提供元が利用目的や利用者を公表したうえで、個人情報から氏名を削除したり、番号に置き換えたりして、他の情報と照合しない限り個人を識別できないようにすれば、共同利用という形で企業側でも利用できるようになったのです。

立岡 匿名加工情報は、完全に患者個人を識別できず、かつ復元できない形に加工することが求められるため、AI医療機器開発の学習や評価に必要なデータまで削ぎ落とされ、企業としては使いづらい面がありました。

中野 その通りです。データの提供元である医療機関にとっても、匿名加工するための実務面での負担が大きく、対応に限界がありました。仮名加工情報ではそうした問題が大幅に軽減されます。

 個人情報は本人の同意がなければ、利活用することはできません。医療機器開発のためにデータを提供する場合には、医療機関はあらためて患者本人に同意を得る必要がありますが、バイタル(生体)データや医療画像データなど病院にあるデータを5年、10年遡って一人ひとりの同意を取得するのは現実的ではありません。その点、仮名加工情報では、データ利用の目的を公表すれば元の目的とは異なる目的にも利用できるようになりました。

 いずれにせよ、個人情報保護法はもともとデータの利活用を前提にできている法律なのに、利活用ではなく保護することだけが前提になっていると誤解されている人が多く、そのため、バランスの悪い制度に見えているのではないでしょうか。

「個人情報」「匿名加工情報」「仮名加工情報」、それぞれにどんなことが要求されていて、どう活用できるのかを正しく理解したうえで、ステークホルダーの方々が利活用を議論していくべきだと思います。

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( 現状維持バイアスの克服で切り開かれる、医療データ利活用と医療 ... - DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー )
https://ift.tt/zqtlGmA

No comments:

Post a Comment