新規ペプチドNERP-4がアミノ酸トランスポーターSNAT2を活性化 膵β細胞機能を維持
宮崎大学は、膵β細胞機能を制御する新規ペプチドNERP-4を発見し、その結合タンパク質としてアミノ酸トランスポーター・SNAT2を同定したと発表した。
NERP-4はSNAT2を活性化して膵β細胞のアミノ酸の取込みを増やし、インスリン分泌を亢進する。また膵β細胞に保護的にも働き、糖尿病の発症や進展に防御的に作用するとしている。
2型糖尿病は、インスリン分泌不全とインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝的素因に加えて、食事、運動やストレスなどの環境因子、さらに加齢にともない発症する。
高脂肪食や過食が続くと、インスリンを産生分泌する膵臓のβ細胞で糖脂肪毒性による酸化ストレスや小胞体ストレスが亢進して、ミトコンドリア機能の障害から膵β細胞機能不全が生じる。
一方、グルタミン、アラニン、アルギニンなどのアミノ酸は、膵β細胞でインスリン分泌を促進する。低グルタミン血症や分子鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)高血症は、糖尿病の発症リスクとなり、アミノ酸異常は糖尿病の病因にも深く関与することが知られている。
しかし、アミノ酸異常が糖尿病の病因となる詳細な分子機序は分かっていなかった。研究グループは今回、膵β細胞で産生されグルコースで分泌されるNERP-4(Neuroendocrine regulatory peptide-4)を発見した。
NERP-4は、膵β細胞でグラニンタンパク質VGFから産生される19アミノ酸の新規ペプチドで、膵β細胞のミトコンドリア内ATP産生から細胞内Ca2+上昇を介して、グルコース依存性のインスリン分泌を亢進し、膵β細胞機能を保護するとしている。
その生理的・病態的機序を解明する過程で、アミノ酸トランスポーターであるSNAT2が重要な役割を果たすことを明らかにした。
NERP-4は、SNAT2のポジティブアロステリックモジュレーターとして、グルタミンやアラニンの取り込みを増やす。アミノ酸トランスポーターを活性化する内因性分子の同定は、NERP-4が世界で2番目としている。
研究は、宮崎大学医学部生体制御医学研究講座の張維東特別講師、迫田秀之特別准教授、機能制御学講座の三浦綾子助教(研究時は内科学講座神経呼吸内分泌代謝学分野に在籍)、宮崎大学名誉教授および大阪大学蛋白質研究所特任教授の中里雅光氏らによるもの。研究結果は、「Nature Communications」に掲載された。
出典:宮崎大学、2023年
NERP-4とSNAT2が膵β細胞機能を制御する新規の分子機構を提唱
研究グループは、肥満糖尿病モデルのdb/dbマウスの膵島で、NERP-4の発現量が低下していることを確認。このマウスにNERP-4を2週間投与したところ、インスリンの産生分泌が増加し耐糖能が改善した。
パルミチン酸刺激した膵β細胞由来MIN6-K8細胞にNERP-4を投与すると、酸化・小胞体ストレスが軽減し、ミトコンドリアダイナミクスが亢進して、膵β細胞機能が改善した。
NERP-4がアミノ酸取込みを増やして、ミトコンドリアのATP産生を増やすとともに、グルタミン代謝物のグルタチオン産生が増加し抗酸化作用を示すことを明らかにした。
「本研究で、グルコースとアミノ酸の変動に対応して、NERP-4とSNAT2が膵β細胞機能を制御する新規の分子機構を提唱します。今後、SNAT2とNERP-4の結合部位を特定し、NERP-4結合がSNAT2の立体構造に与える影響を解析して、アミノ酸トランスポーターの活性を制御する新規の分子機構を明らかにすることを目指します」と、研究グループでは述べている。
「さらに、ヒトの糖尿病におけるNERP-4やSNAT2の発現量や活性を測定して、アミノ酸の代謝や輸送に関連する分子を標的とした糖尿病の病態マーカーや治療薬の開発を進めていきます。本研究で活用した研究技術を駆使して、他のインスリン分泌調節ペプチドの標的タンパク質の同定も行っています」としている。
出典:宮崎大学、2023年
大阪大学 蛋白質研究所
The NERP-4–SNAT2 axis regulates pancreatic β-cell maintenance and function (Nature Communications 2023年12月9日)
[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]
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