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Friday, February 2, 2024

犬や猫だけでなく「ねずみ」を保護する団体まで…台湾で「動物保護」が盛り上がっている背景 - ライブドアニュース - livedoor

注目が集まる「台湾素食」

日本人の海外旅行先のなかで台湾は人気の場所のひとつだ。グルメを目的とする人も多い。もちろん本格的な中華料理が人気だが、夜市の屋台などでの食べ歩きも人気で、魯肉飯(ルーローファン・豚肉煮込みかけご飯)や小籠包(ショーロンポー)、牛肉麺(ニョウローメン)など肉料理が多彩だ。

一方、夜市の屋台や街中の飲食店で「素」、「素食」などの文字を見かけた人も多いだろう。実はこれは肉などの動物性食材を使っていない菜食(ベジタリアン食)やヴィーガン(VEGAN)食等を意味する。日本でも台湾グルメの紹介本などを通して、最近、台湾素食(タイワン・スーシー)が注目されている。 

台湾でも有名な観光スポットの夜市[Photo by iStock]

日本では、ヴィーガンという言葉を聞いたことがあっても、実際にはどうなのか知らない人も多いだろう。ベジタリアンが「穀物や野菜を中心に食べる人」という意味で使われているのに対して、ヴィーガンはより厳しく「動物愛護の観点などから徹底的に動物性食品を口にしない人」のことを指す。魚肉や魚を使用する出し汁なども口にしない。

台湾では肉を使わない料理を「素食」と呼び、なかでも卵、牛乳なども含めた動物性の食材を一切使わないものを「全素(チュエンスー)」や「純素(チュンスー)」と表現している。卵は利用しているものを「蛋素(ダンスー)」、ミルクは使用しているものを「奶素(ナイス―)」、どちらも使用しているものを「奶蛋素(ナイダンス―)」と表記している。

台湾ではこの素食を提供する飲食店や食材を売るスーパーなどを数多く見かける。動物保護運動がかなり活発なこともあり、動物を食べない、殺さないという信条を持ち、行動する台湾の人々は多い。台湾の人口の14%がベジタリアン・ヴィーガンだという(観光庁調べ)。健康維持を主な理由とする人も一定数いると思われるが、かなりの数だろう。

動物保護が盛り上がっている理由

昨年、筆者は台北市大安区にあるUncle Q by Vegandayという「創意ヴィーガンレストラン」と称するレストランを訪れてみた。若者に好まれそうなしゃれた店構えと店内の雰囲気で、メニューもすべて動物性食材を使わない創作料理ばかり。言われなければヴィーガン食とは気づかないような料理が並ぶ。こうしたレストランが台湾では続々とオープンしている。起業家にとってもビジネスチャンスなのだろう。

「Uncle Q by Veganday」で提供されている創作ヴィ―ガン料理(筆者撮影)

人間による動物の利用は、食材になる畜産動物だけはない。狩猟の対象となる野生動物、実験動物や展示動物(動物園など)も含まれる。仏教系団体を中心として動物保護団体の活動は活発だ。そして、筆者自身も現地を訪問してはじめて知ったのだが、その中にはねずみの保護団体まであるのだ。

なぜ台湾では動物保護の機運が高く、ヴィーガンが多いのだろうか。台湾の動物保護活動家で関連著作も多いMona Long(龍緣之)さんは「台湾では、仏教信仰者が人口の35%近くを占めていて、多くの仏教団体が素食を推進していることと、近年の健康ブームが影響していると思う」と話す。

台北市中山区にある關懷生命協會を訪問してみた。「すべての生き物は平等であるという信念に基づいて、動物の権利を擁護し、動物の福祉のために戦い、野生動物を保護し、生態系のバランスを維持すること」を目的としている民間の動物保護団体だ。同協会前理事長の張章得さんに話を聞いた。

張さん自身、建設会社を立ち上げた起業家だったが、仏教の考えを知ってから一転して動物保護に身を捧げたという。同協会は30年前に結成され、当初から動物保護の法制化が主な目的であり、実際に動物保護法や動物を利用したサーカスの禁止、野生動物売買規制、生きている鳥の陳列販売禁止といった法整備を実現した実績がある。

また最近では行政の監視も行うようになり、より多くの国民が動物保護法と関連行政を支持するように、教育活動に重点を置いているという。

ねずみを保護する団体も

台湾でヴィーガンが多い理由のひとつとして、台湾最大の仏教系慈善団体である慈済基金会が素食を推進しているということもあるようだ。同会が台北市信義区で運営している「植境(plantārium)」という施設を訪れた。持続可能な生活、植物ベースの食事をサポートするための素食主義、環境保護、若者のエンパワーメントの促進に特化した「複合コンセプト・パビリオン」を標榜する巨大施設だ。

建物内にはイベントスペース、展示会場、レストラン、スーパーマーケット、書店がある。同施設運営責任者の方逸華さんは、「フォーラム、ワークショップ、展示等を通じて、個人、学校、企業、財団をつなぎ、これらの活動を通じて若者が持続可能な開発の重要性を理解し、日常生活の中で適切な行動をとれるようにすることを目的としている」と話す。

慈済基金会が運営している施設「植境(plantārium)」(筆者撮影)

持続可能な生活において、ヴィーガンという選択が重要視されている。そもそも肉食はエネルギー消費、環境破壊の面でも見直しが迫られている。

台北では前述のMonaさんに案内をしてもらったのだが、市内の各所を訪問途中で、「この近くにねずみ(鼠)の保護団体があるのだが寄ってみますか?」と言われて訪れたのが、台北市松山区にある社団法人台湾愛鼠協会(Rodents Care)だ。ねずみの保護団体まであることには、日本で動物保護を推進するアニマルライツセンターの岡田千尋代表も驚くという。

台北市内にある台湾愛鼠協会の看板(筆者撮影)

建物の1階はペットとしてのねずみのえさや日用品を置くペットグッズショップになっており、2階は保護されたねずみの飼育スペースになっていた。数百匹のねずみが1匹ずつケージに入れられており、それぞれに名前・性別・年齢・健康状態、里親決定の有無が記載されていた。

救助されたねずみが飼育されている協会の2階(筆者撮影)

同協会の設立は2016年6月で、台湾で初めてとなるげっ歯類の世話をする動物保護団体だ。げっ歯類の状況を恒久的に改善することを目的として、救助、擁護を行い、愛護精神を育むための教育活動を行っている。

捨てられたねずみの緊急救助、不適切な飼育環境の改善指導、相談の受付と支援を活動の柱とし、救出されたねずみを飼育し、里親探しを行っている。2024年1月現在で、救出したねずみの数は累計で5587匹だという。

飼育されているねずみのケースには名前・性別・年齢などが表示されている(筆者撮影)

1階部分ではねずみのペットグッズを販売している(筆者撮影)

同会で飼育されているげっ歯類のモルモット(筆者撮影)

驚いたのは活動のための寄付をする人の多さだ。協会の収入は年間2000万円ほどだが、そのほとんどが個人の寄付で賄われている。1000台湾ドル(4700円ほど)くらいの寄付が数多くある。またボランティアスタッフも数多くいる。ねずみの保護団体が設立され、保護活動をできているということは、それだけねずみの愛護・保護に理解を示し、寄付や無償での保護活動までする人が台湾には多いことを示している。

日本でも感じる意識の変化

日本では正月早々に能登地震が起こり、その翌日には羽田空港で支援物資を運ぶ海上保安庁機とJAL機が衝突するという事故も起きた。幸いJAL機の乗客には死者・重傷者がいなかったこともあってか、機内に預けられていたペット2匹が犠牲になったことが報じられた。世間の関心は高く、飛行機事故でのペットの救出のあり方が注目されることとなった。

ペットは家族同様だから客室預かりにして脱出できるようにすべきという意見と、人命が最優先であり、それゆえに荷物の持ち出しが禁止されている中で、ペットが入ったケージを持っての脱出を許せば、乗客の脱出が遅れるので許されないといった意見が衝突している状況だ。

しかしかつてはこのような議論が成立すらしなかったことを考えると、いずれにしてもペットの命が格段に重要視される時代になったことは明らかだ。

一方、豚コレラや、鳥インフルエンザ等で大量の家畜が殺処分になることは頻繁にあり、ニュースにもなるが、それほど世間の関心を呼ばない。犬や猫と、人間の食材になる牛、豚、鶏などの命は何が違うのか。最後はお肉にするために飼育している家畜なのだから、仕方ないと思う消費者は多いのかもしれない。

Photo by iStock

最近、韓国で犬食禁止法が制定されたということで話題になったが、いまだ犬や猫の肉を食する文化を持つ国や地域がある。日本にはそうした食文化を野蛮と思う人が多いと思われるが、一方で犬や猫を食し、それを批判されている人は、牛や豚を食べている人たちがなぜ自分たちを批判するのかと反論する。人間と動物のあり方をめぐる考えは多様だ。

そうした中で、動物を利用するために命を奪うこと自体を容認しない人も増えており、台湾ではその傾向が強い。日本では東京オリンピック開催時に多くの外国人が訪れ、ヴィーガンも多いことからヴィーガンレストランが増えたように思われたが、その後はあまり増えておらず、メニューからヴィーガン食がなくなった飲食店も多いように思う。

台湾に行く機会があったら、ぜひバラエティ豊富なヴィーガン料理を試してみてほしい。我々の豊かで便利な生活が大量の動物の犠牲の上に成り立っていることを考え、肉食はどうあるべきかを自問するきっかけになることを願う。

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