新型コロナウイルスの感染拡大で労働者の健康面や生産性をめぐる不安が高まる中、業務を自動化する動きが活発になっている。ロボットは専ら労働者から職を奪う存在として労働組合などから敵視されてきたが、人との接触で感染が広がる今は、彼らを保護する存在と見なされるようにもなってきた。ロボットの活用が加速しており、ある意味、ウイルスを押さえ込んだ後でもその流れが止まると予想する者はいない状態だ。
長期的な変化が加速
ハーバード大学のリチャード・フリーマン教授(労働経済学)は「他の労働者と6フィート(1.83メートル)離れ、間にロボットを挟めば安全だ。メーカーは解決策としてロボットを販売している。労組がロボット導入に対し、『いや、労働者が健康を害するように隣同士に立たせるべきだ』とは言わないだろう」と話す。
結果として自動化は普及している。自動車のフロントガラスに取り付けられた自動料金収受システム(ETC)や工場の自動床掃除機、生鮮食料品店のサラダ用裁断機、ホテルのロボットバトラーといった具合だ。ただ依然としてはっきりしないのは、それらの職に就いていた人々がどこで働くのかだ。
テクノロジーが雇用に及ぼす影響は不安の種だが、何世代にもわたる研究では矛盾した結果が出ている。自動車で電車が廃れることはなかったし、テレビがラジオを終わらせることもなかった。銀行が現金自動預払機(ATM)を導入した際には、人を減らすのではなく増やした。サービスの幅が広がったからだ。だが機械は多くの仕事を奪ってきた。職場の健康が最大の懸案事項である以上、今の自動化の波が雇用削減を招かないわけではないことが判明するだろう。
米建設機械大手キャタピラーのアンプルビー最高経営責任者(CEO)は先日、古くからある機器の自動運転トラックへの置き換えが進み、自動走行技術は労働者が互いに近接した状況を減らすと話した。
チリで鉱業技術の試験運用を支援する官民協働の国立生産性委員会(CNP)のファン・カリアモ会長は、新型コロナで企業は従業員を現場から離れた場所に移さざるを得なくなり、長期的な変化が加速しているとし、「パンデミック(世界的大流行)が危機感を課している。既に進行中のプロジェクトは迅速化している」と話す。
アスペン研究所の「仕事の未来」イニシアチブでポリシーディレクターを務めるイーサン・ポラック氏によると、リセッション(景気後退)期に自動化投資が一般に行われる理由は、借り入れコストが安い上、企業が自動化に伴わない雇用削減を実施しても景気低迷のせいにできるし、悪評を避けられるからだという。パンデミックはそうした動機づけを助長するにすぎないと指摘する。
格差拡大の助長懸念
マサチューセッツ工科大学(MIT)のデービッド・オーター教授(経済学)はフィラデルフィア連邦準備銀行が昨年9月に行ったオンラインセミナーで、「今回のコロナ禍を脱して労働コストが再び安くなっても、企業は必ずしもこうした工夫を控えるようにはならない。これらはある種の一方的な移行だ」と語った。
労組指導者らが危惧しているのはまさにその点だ。スイスのジュネーブに本部を構える労組の国際組織、インダストリオール・グローバルユニオンで自動車・航空業界の責任者を務めるゲオルグ・ロイタート氏は「新型コロナでデジタル化への移行が加速している様子を自動車業界で目の当たりにしている」と明かす。移行が不可避であれ、労働者は不安になっており、技能向上や技能再教育の支援が必要だと訴える。
だが、イリノイ大学(シカゴ)の経済学者、マーカス・ケイシー氏は、一部の高度な技術を持つ労働者は再訓練されても、料金徴収者のような技能の低い多くの労働者はそうならず、格差が拡大すると論じる。一方で、働かない人が増えれば増えるほど、社会不安のリスクが高まるとくぎを刺す。
その上で「そうした人々の多くが働き盛りの男性で、何もすることがないも同然の状態だ。われわれの社会政策は概して、同世代に金が回らないようになっている。為政者らは職業が十分にない世界に突入した際に生じる、政治問題や社会問題を軽んじている」と警鐘を鳴らす。(ブルームバーグ Olivia Rockeman、James Attwood)
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