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Monday, June 14, 2021

ルイ・ヴィトンが市松模様数珠入れに権利行使するも、特許庁は侵害否定の判定(栗原潔) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

「ルイ・ヴィトン社、日本の市松模様を商標権侵害として訴え敗訴→「もともと市松模様から作られたのに」ヴィトン社の世代交代が原因?」なるtogetter記事を読みました。

「商標権侵害として訴えて敗訴」の部分は正確ではなく、ルイ・ヴィトンの警告書によりウェブ販売サイトから商品を削除せざるを得なくなった神戸珠数店という企業が、商標権侵害の判定を特許庁に請求し、4月14日に、特許庁は侵害がない(問題の商品は商標権の効力の範囲に属さない)という結論を出したというのが話の流れです。裁判所において訴訟が行なわれたわけではありません。

ここで言う「判定」とは特許庁が特許や商標の権利範囲についての判断を示す制度であり、法律的な意味を持った言葉です。判定の結果は裁判所を拘束するわけではないですが、専門家の意見として重視されます。

商標権や特許権の侵害の警告書を受けた場合の対抗措置には、非侵害の確認訴訟を提起することも考えられますが、判定の請求は費用的にも期間的にも裁判よりも圧倒的に手軽なので、今回のようなケースには向いていると思います。

この判定(判定2020-695001)の結果はウェブで閲覧できます。

問題となったルイ・ヴィトンの商標は国際登録952582号(タイトル画像参照)です。いわゆる「ダミエ」と呼ばれる柄です。通常は、地模様的な柄は商標登録されませんが、周知性を考慮して登録されたと思われます。

警告の対象となった商品はウェブには掲載されていないのですが、判定文から判断して滝田商店という会社が販売していた「珠数入れ、経本入れ、御朱印帳入れ等の袋物」等の商品であり、たとえば、タイトル画像右側のような商品と思われます。

一般に、商標権の侵害の判断では、商標が類似しているか否かが問題となります。しかし、それ以前に判断すべき要件があります。それは、そもそもマークや名称が商標的使用されているか、すなわち、消費者が商品の出所を区別するための機能を発揮しているかという点です。

判定文では、以下のように、問題となった市松模様(イ号標章)は、消費者には地模様として認識されるに留まり、商標的に使用されていないことから、類似・非類似を判断するまでもなく、商標権の侵害にはならないとと判断しました。

 そうすると、イ号標章は、その使用商品との関係において、当該商品の布地全面の模様として使用された、日本古来の模様として広く一般に知られ、親しまれている市松模様にすぎないから、自他商品の識別標識として機能するような態様で使用されているものとはいえない。

イ号標章は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていないものと認められるから、商標法第26条第1項第6号に該当する。

なお、商標法26条1項6号とは以下の規定です。

第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。

(略)

六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標

妥当な判断だと思います。なお、商標的使用でないとされたのは対象物品(神戸珠数店の商品の市松模様)であって、ヴィトンのダミエ柄が商標的使用ではないとされたわけではないので念のため。

一般に、グローバルな有名ブランド企業は、かなり無理筋の権利保護行為に出ることがあります。たとえば、「ペンパイナッポーアッポーペン」の商標登録に対してApple Pencilに類似しているとして異議申立をしたアップルの例などがあります(関連過去記事)。守秘義務があるので詳細は書けませんが、私も、海外企業が非類似としか思えない商標権で権利行使してくるケースを何回か経験しています。メカニカルにサーチして、ちょっとでも似てる要素があればとりあえず権利行使してみるというやり方のように思えます。

このようなことを行なう理由の1つとしては、侵害行為を大して影響はないだろうと放置していると商標保護する意思がないと裁判等で判断されてしまうリスクがあるので、それを避けたいということがあるでしょう。積極的に異議申立や権利行使をすることで、この商標の保護に多大な費用と労力を費やしている(ゆえに、保護に値する)という主張を行ないやすくなります。しかし、今回のケースはちょっとやり過ぎだったと思います。判定では、被請求人であるルイ・ヴィトンには答弁の機会が与えられるのですが、同社は何ら答弁を行なっていません。ダメ元でとりあえず警告書送ったんですねと言われてもしょうがない状況と思います。

ところで、市松模様で思い出したのですが、以前書いた鬼滅の刃の炭治郎の衣服の柄の商標登録出願(商願2020-078058)がどうなっているかと調べたところ、つい先日の5月28日に、装飾的な地模様として認識されるに留まるので識別力がない(3条1項6号)という拒絶理由通知が出ていました。これに対して、出願人(集英社)は周知性を主張して権利化を目指すことになるでしょう。仮にこの主張が(たとえば衣服について)認められて登録されたとしても、相手の商標が単なる地模様として認識されるに留まる場合に商標権の行使はできないのは、今回のケースと同様です。一方、たとえば、炭治郎のコスプレ衣装として消費者に認識されるような商品であれば、権利行使は可能でしょう。

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