女性への差別的な内容を含む売春防止法の規定を削除し、貧困や性暴力で行き場を失った女性の公的支援を明記した新法「困難女性支援法案(仮称)」の内容が固まった。既に与野党5党が党内手続きを終え、自民党は1日にも正式に了承する。目的を「更生」から「支援」へと抜本的に転換するのが柱で、今国会で成立する公算が大きい。女性たちの苦難に寄り添ってきた関係者の間では期待が高まっている。(大野暢子)
◆威圧的文言、一律で犯罪者扱い
売防法は1956年に制定され、法の目的を示す第1条に「売春を行うおそれのある女子に対する補導処分及び保護更生の措置を講ずる」と明記。3~4章に、同法違反で執行猶予付きの刑を受けた場合、独房のような「婦人補導院」に収容できるとの規定や、女性を一時保護する「婦人相談所」の役割として「必要な指導を行う」と定める条文もある。
威圧的ともいえる文言が並ぶのは、戦後間もない時代の価値観に基づいているためとされるが、一度も抜本改正されてこなかった。
売春は知的障害者らがだまされて従事させられたり、生活困窮でやむなく追い込まれたりするケースも多い。保護対象には家庭内暴力やストーカーの被害者も含まれるのに、一律に「犯罪者扱い」していることが、女性を追い詰め、生活再建を妨げているとの批判は根強く、与野党の女性議員が中心となり、新法制定の機運を醸成し、条文を議論してきた。
新法では売防法の全40条のうち、売春を違法とする条文は残しながらも第1条を修正し、3~4章の計24の条文を削除。婦人相談所と中長期的に身を寄せる婦人保護施設の名称も一新し「医学的・心理学的な援助」「退所者の相談」が役割だとして、支援施設であることを明確にした。
新法をすでに了承した5党は公明、立憲民主、日本維新の会、共産、国民民主。自民も了承すれば、4月上旬にも国会提出される。
◆「収容」から寄り添いに…婦人保護施設は期待
売春防止法に代わる新法を支援現場は約30年、求めてきた。関係者からは「本当に困っている女性を助ける第一歩となる」と歓迎の声が出ている。
「施設を売防法から切り離し、差別性や閉鎖性の解消につなげたい」。全国で唯一、妊産婦に特化して受け入れている民営の婦人保護施設「慈愛寮」の熊谷真弓施設長は、こう訴える。
売防法の弊害とされるのが、女性を一時保護するため、都道府県ごとに設置された「婦人相談所」の在り方だ。婦人保護施設で生活再建を目指す場合は原則、婦人相談所に2週間前後入らなければならない。売防法が「更生」を目的としているため、職員による行動観察に加え、携帯電話の使用や外出を制限するケースもある。こうした環境への拒否感から利用をためらい、支援につながらない人も多い。
現在の婦人相談所や婦人保護施設は、売春にかかわった人より、家庭内暴力の被害者らの受け皿になっているのが実情だが、売防法は婦人保護施設も女性を「収容」する施設と定義。入所者を支える常勤指導員も、国が人件費を出すのは定員100人の施設で2人までで、熊谷さんは「入所者に丁寧に寄り添える体制が保証されているとはいえない」と語る。
新法は、相談支援を行う職員について「人材と処遇の確保」や「必要な能力及び専門的な知識経験を有する人材の登用」を明記。立案にかかわった与党議員は「現場は非正規職員が多い。これを機に正規化を進めるべきだ」と説明する。
具体的な対応策は法施行後、基本方針や基本計画という形で、国や都道府県に策定を義務付ける。どこまで支援を手厚くできるかが問われる。
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