(出所:123RF)
データバックアップは、データを複製し別のメディアに保存することである。万が一の事態に事業を運営していくうえで必要となるデータを復元できるよう、データを保護する。
本記事ではDBMS(データベース管理ソフトウエア)に格納されているデータのバックアップについて、DBMSの設計・構築・運用管理などを手掛けるアクアシステムズの川上 明久氏と王 暁瑜氏が解説する。併せて、日経クロステックActiveの記事から、代表的な製品や事例などを紹介する。
初回公開:2022/6/6
*「1. データバックアップとは」「2. データバックアップの方式」「3. 方式別に見たデータバックアップのメリット/デメリット」「4. 代表的なデータバックアップ製品・サービス」「5. データバックアップ製品・サービスの価格・料金相場」「6. データバックアップ製品・サービスを選定する上でのポイント」は川上 明久氏、王 暁瑜氏が執筆
1. データバックアップとは
データバックアップは事業運営上必要なデータを複製して別のメディアに保存する作業、またはそれを実行する仕組みを指す。ここでは、DBMS(データベース管理システム)に格納されているデータのバックアップについて記載する。
顧客データなど事業運営上必要なデータは、注意して扱っていても様々な状況でトラブルに見舞われることがある。誤ってデータを削除・更新するヒューマンエラー、システムのバグやウイルス感染のようなソフトウエア上のトラブル、災害や機器の故障などが考えられる。
こうしたトラブルによるデータの損失や破損は、事業や業務を継続できないリスクとなる。万が一の事態にデータの復元ができるよう、データを保護するのがデータバックアップの基本である。
また法律・監査などの要件により、一定期間保持しなければならないデータもある。さらに、データ分析と意思決定などでデータから価値を生む活動をする際、過去のデータを利用することもある。こうしたケースでも、バックアップしたデータに対するニーズが生じる。つまりバックアップはBCP、セキュリティー、コンプライアンスなど様々な対策において必要となる作業・仕組みだといえる。
バックアップデータはメディアに保存する。おもなメディアとしてはテープ、ハードディスク、クラウドサービスがある。製品選定時には、バックアップおよび復旧に要する時間のほか、バックアップするデータの容量、費用、運用の手間、災害リスクなどを考慮するとよい。
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2. データバックアップの方式
データバックアップは「フルバックアップ」、「差分バックアップ」、「増分バックアップ」に分類される。それぞれの特徴と実行手順について概要を説明する。
(1)フルバックアップ
フルバックアップは「完全バックアップ」とも呼ばれ、ある時点におけるすべてのデータを対象に、複製して保管する方式である。時間の経過とともにデータが増加すると保存対象も増えていき、必要とするバックアップ先メディアの必要容量と時間も増していく。そのためバックアップするデータの容量が大きい場合は、フルバックアップと差分バックアップまたは増分バックアップを組み合わせたバックアップ計画を立てるケースが多い。
(2)差分バックアップ
差分バックアップは、前回のフルバックアップから変更または追加されたすべてのデータを複製して保管する方式だ。ある時点のフルバックアップを基準にして、それ以降の変更分のデータをバックアップ対象とすることになる。そのため、初回のフルバックアップと差分バックアップを持ち、指定するタイミングの状態に戻せる。
毎週日曜日にフルバックアップを取得し、日曜日以外は毎日差分バックアップを取得するケースで考えてみよう。日曜日のデータサイズが100GBで、以降は毎日1GB追加される場合、バックアップの容量は次のようになる。
日曜日 | 100GB |
---|---|
月曜日 | 101GB |
火曜日 | 102GB |
水曜日 | 103GB |
木曜日 | 104GB |
金曜日 | 105GB |
土曜日 | 106GB |
この例では、日曜日にフルバックアップを取得後、これを基準にして毎日差分バックアップを実行する。データバックアップ方式とバックアップされるデータ容量は以下のようになる。
日曜日 | フルバックアップで100GB |
---|---|
月曜日 | 差分バックアップで1GB |
火曜日 | 差分バックアップで2GB |
水曜日 | 差分バックアップで3GB |
木曜日 | 差分バックアップで4GB |
金曜日 | 差分バックアップで5GB |
土曜日 | 差分バックアップで6GB |
差分バックアップはフルバックアップを基準とするため、フルバックアップから日数が経過するにつれてバックアップされるデータ容量が増加する点に注意が必要となる。この例では、差分バックアップのために一週間合計21GB、フルバックアップに100GBの容量が必要となる。
バックアップから水曜日の状態に戻す場合、フルバックアップの100GBを戻したうえで、水曜日に取得した差分バックアップの3GBを適用する。戻す際は、水曜日以外の差分バックアップは必要ない。差分バックアップはフルバックアップとの組み合わせでのみ利用される。
差分バックアップは、「ディファレンシャルバックアップ」と呼ぶこともある。
(3)増分バックアップ
増分バックアップは、前回のバックアップ後に更新・追加されたデータを対象にし、複製して保管する方法である。差分バックアップとは、前回のフルバックアップもしくは増分バックアップ後に更新・追加されたデータを対象にする点が違う。フルバックアップと増分バックアップを組み合わせて指定するタイミングの状態に戻す場合、フルバックアップと、フルバックアップ以降のすべての増分バックアップを利用する。
ここでは毎週日曜日にフルバックアップを取得し、日曜日以外は毎日増分バックアップを取得する場合を考えてみる。日曜日のデータサイズが100GBで、以降毎日1GBの更新・追加があるとすると、データバックアップ方式とバックアップ対象のデータ容量は以下のようになる。
日曜日 | フルバックアップで100GB |
---|---|
月曜日 | 増分バックアップで1GB |
火曜日 | 増分バックアップで1GB |
水曜日 | 増分バックアップで1GB |
木曜日 | 増分バックアップで1GB |
金曜日 | 増分バックアップで1GB |
土曜日 | 増分バックアップで1GB |
この例では、増分バックアップのために一週間合計6GB、フルバックアップに100GBの容量が必要となる。水曜日の状態に戻す場合は、日曜日のフルバックアップを戻したうえで、月曜日・火曜日・水曜日に取得した増分バックアップの合計3GBを適用する。
この増分バックアップは、「インクリメンタルバックアップ」とも呼ばれる。
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商用DBMSのバックアップ機能
商用DBMSでは、先ほど説明した3つのバックアップ方式を標準でサポートする機能が備わっている。最もよく利用されるOracle DatabaseとSQL Serverに関して、バックアップ機能を紹介する。
Oracle Database
「Recovery Manager」というバックアップ機能が提供されている。この機能はフルバックアップ、差分増分バックアップ(差分バックアップに相当)、累積バックアップ(増分バックアップに相当)に対応しており、独自のコマンド体系を利用して実装する作りになっている。
SQL Server
バックアップコンポーネントが備わっている。このバックアップコンポーネントは、データベースまたはトランザクションログから、データまたはログレコードをバックアップ先にコピーする。完全バックアップ(フルバックアップに相当)、差分バックアップ、部分的な差分バックアップ(増分バックアップに相当)に対応している。
ストレージ製品のバックアップ機能
ストレージとは、データを保管・記憶する装置やシステムのことである。ストレージ製品の中にはバックアップ機能をオプションで提供するものがあり、これらはデータバックアップの選択肢となる。
ストレージ製品が持つバックアップ機能の特徴は、ストレージ上の領域を一括してバックアップ・復元することだ。シンプルで手間がかからないことがメリットで、フィットすれば導入しやすい。デメリットは、一括してバックアップする方式のためバックアップ対象を細かく選別できないことである。同一種類のストレージ製品のみがバックアップ先となり、バックアップ先選択の柔軟性も高くない。コストは、専用のバックアップソフトウエアをはじめとしたバックアップ製品と比較して一桁高いのが一般的となっている。
3. 方式別に見たデータバックアップのメリット/デメリット
各データバックアップ方式のメリットとデメリットは以下の通りだ。
フルバックアップ
フルバックアップのメリットは(1)簡易さ、(2)復元時間の短縮の2つになる。
(1)簡易さ:ほかの方式では、差分バックアップまたは増分バックアップをフルバックアップと組み合わせてバックアップや復元をすることになる。そのため実装が複雑になり手間がかかる。フルバックアップのみであれば、シンプルなぶん比較的手間をかけずに実装できる。作業コストが低く作業ミスも起こりにくい。
(2)復元時間の短縮:ほかの方式のようにフルバックアップから戻した後、差分バックアップまたは増分バックアップを適用する必要がない。そのため復元時間の短縮にもつながる。
フルバックアップのデメリットとしては、(1)バックアップ時間がかかること、(2)バックアップの負荷が大きいことが挙げられる。フルバックアップは比較的効率が悪いとも言える。
(1)バックアップ時間がかかる:毎回データ全体をバックアップするため、バックアップ時間が長い。バックアップに時間をかけられない場合は、ほかの方式を考慮すべきだろう。
(2)バックアップの負荷が大きい:都度全データを対象にしてバックアップするため、バックアップ処理に大きな負荷がかかる。サイズの大きなデータを許容される時間内にバックアップする場合は、システムリソースの増強などを考慮する必要がある。
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差分バックアップ
差分バックアップのメリットは、フルバックアップよりもバックアップ時間が短いことである。差分バックアップのデメリットはフルバックアップと比較し、復元に手間と時間がかかることとなる。
増分バックアップ
増分バックアップには、差分バックアップと同様のメリット・デメリットがある。差分バックアップと比較すると、増分バックアップ対象のデータ量が一定であるため、更新データが多い場合に平日のバックアップ容量とバックアップ時間を一定に保てるというメリットがある。
デメリットは、復元する際に適用するバックアップデータの数が多くなりやすく、復元にかかる手間も大きくなる点である。
4. 代表的なデータバックアップ製品
以下に、代表的なデータバックアップ製品を挙げた。
OSに付属する無償バックアップツール
・Windows Server バックアップ MicrosoftのWindows Serverバックアップに関連する操作コマンドの解説ページ
・Linuxのバックアップコマンド「dump」 日経クロステックにあるdumpコマンドの解説ページ
有償バックアップソフト
・Arcserve Backup・米Arcserve Arcserve Backupの製品ページ
・Acronis Cyber Protect・スイスのAcronis Acronis Cyber Protectの製品ページ
・NetBackup・米Veritas Technologies NetBackupの製品ページ
・Quest NetVault・米Quest Software Quest NetVaultの製品ページ
・Backup Exec・米Veritas Technologies Backup Execの製品ページ
・Veeam Backup & Replication・米Veeam Software Veeam Backup & Replicationの製品ページ
有償製品は、無償で利用できるOS機能にはないバックアップ・復元の機能を備えている。共通して実装されている基本的な機能は、以下の通りである。
(1)画面での簡易な操作
データバックアップ製品は、データのバックアップおよび復元(リストア)を簡易な画面操作で実行できる。OSやDBMSの機能を使って実装するには専門知識が必要となるため、専門家でなくても実装、操作できるのは大きなメリットだ。
(2)差分・増分バックアップのサポート
これもDBMSの機能を使うと実装可能だが、複雑で操作ミスが起こりやすい。データバックアップ製品は差分・増分バックアップを容易に実行可能となっており、ここはメリットと言える。
(3)多様な環境サポート
データを格納するDBMSには複数の種類があり、DBMSを配置する環境も物理サーバーや仮想環境、クラウドがある。そのためバックアップ対象となる環境の組み合わせが多くなるのが実情だ。それぞれの環境で実装方法は異なるため、バックアップ手段を実装し復元できるエンジニアを用意するのはコストがかかる。有償のデータバックアップ製品は共通の画面で複数のバックアップ環境を管理できる。一度使用法を習得すれば、環境が変わっても比較的小さな学習コストで対応できる。
(4)バックアップの世代管理
古く不要になったバックアップデータは削除する運用にするのが一般的である。一方で法令に対応する場合など、バックアップを何世代かにわたって管理する場合もある。データバックアップ製品はバックアップの世代管理機能を備えており、保管する世代数を設定すれば自動的に不要なバックアップデータを削除してくれる。
(5)バックアップジョブ管理
データバックアップ製品には、バックアップ処理を決まった時間に自動的に実行する機能がある。バックアップ処理の状態を通知する機能もあり、万一、バックアップ先の環境でハードウエアの破損などが発生しバックアップが失敗した場合、その状態がメールなどで通知される。人手で状態を確認する手間がかからず、バックアップが取得できておらず復元できないという状態を避けられる。
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5. データバックアップ製品・サービスの価格・料金相場
データバックアップ製品は、一般的にライセンスを購入したうえでソフトウエア保守契約をする課金方法となる。ライセンスはバックアップ対象のサーバー単位で購入するのが主流である。バックアップ対象の環境やデータ容量、製品の利用機能によってはオプション料金が発生する場合もある。
基本機能を利用する場合、バックアップ対象サーバー1台あたりのライセンス費用と5年間のソフトウエア保守費用の合計で約35万円が相場となっている。
6. データバックアップ製品・サービスを選定する上でのポイント
データバックアップ製品・サービスの選定時には、以下の点に留意するとよい。
(1)データバックアップの目的を満たす機能があるか
どの製品も基本機能は共通して備えているが、広域災害に対応するための遠隔地やクラウドへのバックアップといった特殊な用途がある場合は、それらの用途がサポートされているかを確認する。企業の場合、DBMSのデータだけではなくOSやファイルシステムもバックアップ対象となることがある。バックアップ対象が幅広い製品もあるため、DBMS以外もバックアップ対象となる場合は、対応状況を確認する。
(2)サポートする環境
自社環境で利用しているDBMS、仮想化・クラウド環境がサポートされているかを確認する。
(3)技術サポートの充実
製品を習得する際に、技術サポートを頼る必要が出てくるかもしれない。そのため、技術レクチャー・導入サービスの充実度、代理店の対応という観点からもソフトウエア保守のクオリティーを評価する。自社での運用に不安がある場合は、障害時の復元作業代行といった運用支援を委託できる代理店からの購入を検討する。
(4)操作性
メーカーによって製品の作りが異なり、画面の操作性に違いがある。利用するのがエンジニアか、非エンジニアかによって使いやすさの評価が分かれることもあり得る。事前に評価版を入手して操作性を確認する。
(5)価格
製品価格で大きな差は生まれにくいものの、技術サポートで差が出る場合がある。技術サポートを利用することがあり得る場合は、選定時に確認することをお勧めする。
(出所:123RF)
7. データバックアップの代表的な事例
8. 注目のデータバックアップ関連製品とサービス
データバックアップを導入して現場で活用するには、様々な手助けをしてくれる製品やサービスを利用するとよりスムーズに進む。以下では、注目のデータバックアップ関連製品とサービスを紹介する。
Cohesity Japan
デル・テクノロジーズ
日本IBM
9. データバックアップの新着プレスリリース
川上 明久
アクアシステムズ 執行役員 技術部長
クラウド、データベースのコンサルティングに多数の実績・経験を持つ。クラウド、データベース関連の著書や雑誌記事の執筆・連載、セミナー・講演を多数手がけ、急増するクラウド化への要望に対応できるエンジニアの育成や技術・スキル向上支援に力を注ぐ。
王 暁瑜
アクアシステムズ
アプリケーション開発の経験を経て、現在はデータベースエンジニア。アクアシステムズに⼊社後、各種データベースの設計・構築、クラウド・オンプレミス上データの移行支援などに携わる。近年は、Oracle Database、SQL Server利用のシステム移行案件に従事。
からの記事と詳細 ( データバックアップとは:データを守る3つの方法、BCPだけじゃない用途 - 日経 xTECH Active )
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