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Monday, July 11, 2022

気候変動で植物をどう保護するか:シードバンクの必要性と限界 - GIZMODO JAPAN

好きなお野菜はなんですか?

ブラッシカ・ラパ。アブラナ科アブラナ属の野草で、白菜、カブ、青梗菜などたくさんの野菜がここに含まれます。人類が何千年と食べてきたブラッシカ・ラパに、近年、変化が起きています。2007年2018年に行なわれた研究では、カリフォルニアで栽培したブラッシカ・ラパの種を調査。干ばつがあった前後を比較すると、干ばつ後に収集された種から育ったブラッシカ・ラパは、花を早い時期に咲かせることがわかりました

ニューヨークのフォーダム大学の植物生態学者であるSteven Franks氏いわく、花を早く咲かせるのは、植物にとっては生存をかけた作戦なのだといいます。乾燥した年に花を咲かせる時期を早めたものは、言い換えると、乾季の中で子孫を残すことに成功した種ということ。Franks氏は乾季に強い種を収集できたのは幸運だと語り、現在、複数のシードバンクに保存され、さまざまな研究プロジェクトに使用されています。

気候変動で農業困難地域ではシードバンクが必要

気候変動によって、世界中で暑く乾燥した時期・エリアが増えています。変化は人間だけでなく植物にも大きく影響し、2019年の研究では、過去の絶滅率よりも500倍早いスピードで植物の種類が消え去っていっているといいます。

農業が困難になりつつあるエリアもある中で、シードバンクは植物カタログとしてだけでなく、より良い作物を育て、人類の食料を確保し、自然な環境に植物を戻しエコシステムを再構築するのに必要な存在です

一方で、環境が変化していくなか、バンクの中で生き物の時間を止めるだけで未来に適応できるのでしょうか。植物が花の時期を早めて適応したように、バンク自体が変化する必要はないのでしょうか。

野性とシードバンクの種の違い

バンクに冷凍保存されている種と、地中から自然の中で育った野生種は同じ成長をしません。後者は乾季を実際に体験した種で、前者はしていないからです。ネバダ大学の植物生態学者Elizabeth Leger氏は、取材にてバンクについてこう語ってくれました。

シードバンクは保存に膨大な労力をかけています。それでも、最高の保存方法というのはその植物が元いた環境なんです。野生の種は、気温や周辺植物、火などさまざまなことに反応し、成長するタイミングを見極めていきますが、バンクの種にはそのチャンスがありません。(冷凍することで)植物の時間を止めることはできますが、その瞬間から野生の植物ではなくなってしまいます。

2017年の自身の研究で、野生とバンクの種の違いを実感したというLeger氏。アメリカのグレートベースン国立公園で、野生の植物が侵入種によってどう変化するのかを調査しました。侵入種がいることで、野生植物はより早く根を伸ばす、種をつけるなど、エネルギーを凝縮した動きをみせました。これは、生き残るために侵入種より秀でる必要があるためでしょう。ただ、バンクに保存されている植物は、この戦いを経験できないため対応するこができないかもしれません。

Leger氏は、保存すること以上の取り組みがバンクには必要なのではと指摘します。より広い地域からより頻繁により多くの種を採取すれば、より適応力が高い植物を保存できるチャンスは高まります。Leger氏はいわく「とにかく継続することが大切」。人類が引き起こした環境変化に適応できる種もある一方、すべての手が可能なわけではないということも頭に留めておく必要があります。

シードバンクの種を適した環境に戻す必要がある

ミネソタ大学の進化生物学者Julie Etterson氏は、「気候変動で最も気にすることのひとつは、どれだけの植物が適応できるのかということです」と語ります。Etterson氏の初期の研究の1つは、気候変動のスピードに追いつくよう植物が対応できるか否かというトピック。研究の結果、Etterson氏の出した結論はNO。適応を見せた植物ですら、成長が続かなかったケースもあるといいます。

「北部への移住を手助けする必要があります」というEtterson氏。シードバンクの種を元あった場所に戻すだけではこれからは不十分であり、現状適した環境を探し、戻してやる必要があると指摘しています。

乾季経験有りの種も適応できないことも

実際に乾季に直面した種も、永遠に適応作戦を持続できるとは限らないという研究もあります。

前述の2007年・2018年の研究では、2007年に干ばつ時期前後(1994年と2004年)の種の成長を研究し、干ばつ経験種は花をつけるのが早いことがわかりました。その後2018年の調査で、2世代後(2011年と2014年に種を採取)も同じく成長の速さを見せたものの、そこから生まれる種の数は減少傾向にあったといいます。Franks氏は、これを適応応力を失いはじめているのでは、と考えており、研究では、植物の環境に応じた適応力発動には世代に制限があるとう仮説をたてています。

植物絶滅前に種を確保

食料確保を目的としたフードバンクは、多種多様な種類の種の収集に努力しています。環境変化に適した作物を増やす・作り出すためには、植物が絶滅してしまう前により多くの種を集め、少しでも多くの生物学的多様サンプルが必要です。

しかし、気候変動がスピードアップする一方、採取のスピードはダウンしているのが現状。シードバンクの手助けをする国連関連のNPO団体の科学者Hannes Dempewolf氏は、採取の許可をとること、リソースや資金の確保が難しいことを理由にあげ「目標到達はまだまだ先です。日々、多様な種を失い続けていると感じています」と語ります。

野性の種の採取はお金がかかる

Leger氏いわく、野生の種の採取には1旅5000ドルから1万ドルが必要。長距離トレッキングが必要な場合もあり、1週間から2週間かけて出向いても、種の採取ができないこともあるといいます。スタート地点である採取そのものはもちろん、その後の冷凍保存にもコストがかかります

Dempewolf氏いわく、中でも最もコストがかかるのは、種の保存歴を管理し見極め、次世代を作ることだとか。保存が長期にわたる種は、成長困難な状態になる場合もあるので、種と冷凍の状態を管理し続けなくてはなりません。保存継続が難しいと判断された場合は、その種を育てそこから新たな種を採取しなおし、初代ゲノムを保存する必要がありますが、これには時間とリソースが必要。初代のゲノムをキープするため、他とは完全隔離で栽培する必要があるからです。手間をかけても失敗することもあるので、そもそも種を多く保存しておかねばなりません。

種を冷凍しないのが一番

極論を言ってしまうと、種は冷凍するようには作られてはいないということ。冷凍しないですむならそのほうがいいんです。シードバンクには大きな意味があり、必要なのは間違いありませんが、シードバンクは気候変動の完全対応策にはなりません。あくまでも一部パッチ程度。シードバンクを発展させるとともに、実際の自然そのものを保護していく必要があるのです。

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