兵馬俑(へいばよう)のある秦始皇帝陵博物院(陝西省西安市)の内部では、五十人ほどの研究者や技術者らが発掘史料の保存作業や付着物の分析を続けている。担当する夏寅(かいん)主任研究館員は「いわば病院のようなところです」と語り、埋蔵品を「病人」に例えた。
発掘されたばかりの埋蔵品は「鉄器製品はぼろぼろになっていて、細心の注意を払わないと崩れてなくなってしまう」。特に神経を使うのが俑(よう)(陶製の人形)に塗られた上絵だ。夏さんは「二千年以上も埋蔵された結果、大部分の色は消えている。残された色もちょっとした摩擦などが致命傷になってしまう」と話す。
発掘された埋蔵品にとって最もやっかいなのはカビの存在だ。「まだ湿気を含んでいるので、適度な湿度と温度のある場所に移すと繁殖する」。まずは滅菌作業が重要。作業室には温度や湿度、光量を測定する機器や電子顕微鏡が置かれている。「無菌室」と同じように微細な異物が混入しないよう内側にもう一枚仕切りを作った部屋もあった。
陝西省は二〇一八年に管理規定を作り、希少価値が特に高く、展覧会など外部に出品できない埋蔵品・史料を指定した。例えば実物の二分の一の大きさで四頭立ての馬車を模した「銅車馬」や、当時の宮廷内の芸能・娯楽を再現したとみられる「百戯俑(ひゃくぎよう)」は門外不出になった。
出展が許された埋蔵品についても、夏さんは「専門的な立場で言えば出品したくはないですね」と本音を語る。「ある展示会の出品作業を担当したが、ちょっとした揺れであっても厳密に見ると文物は損傷する。(輸送中は)気が気じゃなかった」。一七年には米フィラデルフィアで開かれた展示会で、兵士俑の親指が若い男に折られる事件があった。展示期間中の保護・保管にも悩みは尽きない。
新型コロナ禍の中、いくつもの難題を乗り越えて開かれる展示会。「日中国交正常化五十年」という節目の年に実現できた意義も大きい。邵文斌(しょうぶんひん)考古工作部主任は「予定通りに展示会を開催できたのは奇跡といえます」と笑みを浮かべた。
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「兵馬俑と古代中国〜秦漢文明の遺産」は二十八日まで県立美術館で開催しています。
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