米国の中小銀行や地方銀行に突然のしかかってきた重圧を軽減し得る方法として、かつて考えられなかった措置がワシントンの権力中枢で浮上している。
通常、米連邦預金保険公社(FDIC)は25万ドル(約3300万円)までの預金を保護する。この限度額は銀行顧客の大半が安心して夜眠れるほど高いものだが、最近の銀行業界の緊張から、上限を一時的に引き上げるか、廃止することが検討されている。
1.預金保護に上限がある理由は?
連邦預金保険の目的は、銀行に預けられた資金(現在約 18兆ドル)全額を保証せずとも、米国の銀行システムへの信頼性を高めることにある。1934年にその前年の銀行不安に対応して創設された預金保険制度は当初2500ドル(現在の約5万6000ドル相当)を上限として始動した。FDICによれば、これは「銀行システムの信頼と安定を回復する上で、即座に成功を収めた」。預金保険対象の上限はこれまで 7回引き上げられ、最近では2008年に現在の25万ドルに増額された。
2. なぜ上限額の引き上げが議論されているのか?
過去10年余りで最大規模となったケースを含む2行の経営破綻は、保険対象外預金(1口座で25万ドルを超える部分の預金)が脆弱(ぜいじゃく)であることを米国の富裕層や中小企業に思い出させる恐ろしい事態となった。より安定していると思われる大銀行に彼らが資金を移すにつれ、中小の地域金融機関からの資金引き出しが増えるという悪循環に陥った。限度額を引き上げれば、小規模銀行の顧客は自己資金が安全だと安心し、この悪循環を断ち切ることができる。
上限引き上げを支持する人の中には、米国一の富豪で、ツイッターやテスラの最高経営責任者(CEO)を務めるイーロン・マスク氏もいる。マスク氏は、銀行の取り付け騒ぎを阻止するために限度額の引き上げは「絶対に必要」だと述べている。
3. 限度額の引き上げや廃止の権限は誰が持つ?
通常、FDICの保険限度額を引き上げるには議会の承認が必要であり、政治的に深く分断された時代には大きなハードルだ。しかし、当局は緊急時にFDICの預金保険を一時的に拡大するための法的枠組みを議論していると、協議について知る関係者は話している。これは米財務省の緊急措置の権限を利用するもので、通常は通貨売買に使われるが、近年は緊急融資ファシリティーを支援することもある為替安定化基金(ESF)を活用する。
イエレン米財務長官は22日、議員に対して「預金の全面的な保険や保証に関することを、私は検討したり議論したりしていない」と 発言。23日の議会公聴会では、「もちろん、正当化される場合は追加措置を講じる用意があるだろう」と 述べた。
4. 実現する可能性はどの程度あるのか?
今のところ、こうしたシナリオを 検討している人たちでさえ実行に移す意向はないと、当局の考えをよく知る人たちは言う。だが、彼らは状況が悪化した場合に備え、計画を準備しておきたいのだという。
上院銀行委員会のブラウン委員長など一部米議員は、FDIC改革について超党派で協力できる余地があるとみている。恒久的または一時的に上限を廃止することや、法人向けに別の保険カテゴリーを創設することなどが含まれる可能性がある。しかし、どのような立法努力も、分裂し党派的な議会では厳しい論戦に直面することになろう。
5. 米国の預金を全額保護するにはどれだけ保険が必要か?
18兆ドルの預金を保護するのに18兆ドルは必要ない。銀行は通常、預金よりもはるかに多くの資産を持つ。金融機関が破綻した場合、資産を売却し預金者への支払いに回す。しかし、資産をすぐに売却しても十分な現金が得られず不足することがあるため、FDICの保険が適用される。
2022年末現在、FDICの預金保険基金残高は1280億ドル強で、推定付保預金残高は10兆ドル超。預金保険基金は、FDIC加盟銀行に課す保険料と、米国政府証券への投資から得られる利息という2つの方法で資金を調達している。
6. 上限引き上げ案に誰が反対しているのか?
保守派議員の中には、FDICの保険増額に断固反対する人もおり、強硬派の「下院自由議員連盟」は25万ドルを超える銀行預金への万遍ない保証には 反対すると表明している。
原題: Could the US Really Guarantee All Bank Deposits?: QuickTake(抜粋)
からの記事と詳細 ( 米国は銀行預金を本当に全額保護できるのか-QuickTake - ブルームバーグ )
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