罪を犯した人らの更生を支える保護司の担い手確保が急務となっている。平均年齢は65歳を超えて高齢化が進み、10年以内に少なくとも約4割が退任する見通しだ。制度の維持には働きながら保護司を務める現役世代の増加が不可欠で、法務省は有識者検討会を設けて待遇改善などの議論を始めている。(松下聖)
「相手の人生に深く寄り添うことは自分の仕事にも生きる部分が多く、現役世代が保護司をやる意義は大きい」。千葉市の杉本景子さん(44)はそうやりがいを語る。
不登校の子どもや親らを支援するNPO法人で理事長を務める杉本さんは2016年3月、知人の勧めもあり、「もっと社会の役に立ちたい」と保護司になった。
保護司は刑務所を刑の満期前に仮出所したり、少年院を仮退院したりするなどして、保護観察の対象となった人と定期的に会い、生活上の悩みや就労などの相談に乗る。
杉本さんがこれまでに担当したのは、10~50歳代の男女約10人。相手に合わせて面会日時を決めるため、自分の子どもと一緒に食事ができなかったり、仕事時間を割いたりすることが度々ある。面会の約束を破られるなど、気苦労も絶えない。
それでも、更生のため懸命にもがく相手を支える充実感は大きい。中学生の頃から支援を続けた少女が成長し、立派な母親になった時はとてもうれしかった。「普通の人」がネットを通じて犯罪に加担するなど現代社会の課題やひずみを実感したり、新たな人脈ができたりするなど、自身のためになったことも多い。
ただ、保護司と連携して更生支援にあたる国の保護観察所の研修など、面会以外の活動の多くも平日の日中に行われる。杉本さんは「現役世代が担うには研修を在宅で受けられたり、業務のオンライン化を進めたりするなど、負担を軽減する改革が必要だ」と訴える。
保護司は、明治時代に篤志家が刑務所出所者の支援をしたことを起源とする日本独自の仕組みだ。現在は1950年に制定された保護司法に基づき、法相が委嘱する非常勤の国家公務員に位置付けられているが、実質は無給の民間ボランティア。同法は「社会奉仕の精神」で業務を担うことを保護司の使命と規定する。
犯罪白書によると、刑務所を出所後、2年以内に再び罪を犯して入所する「再入率」は2020年の場合、仮出所者が10・0%だったのに対し、保護司の支援対象とならない満期出所者は22・6%だった。法務省は、仮出所者らを地域社会に受け入れる保護司が更生に果たす役割は大きいとみている。
だが、近年は高齢化が進む。同省によると、全国約4万7000人の平均年齢は今年1月で65・6歳。1975年に50歳未満は15・8%、70歳以上は17・8%だったが、それぞれ6・4%、38・5%と差が広がった。2年間となっている任期は何度でも再任が可能だが、「再任時78歳未満」という年齢制限があり、今後、大量の退任が見込まれる。
保護司になるには各地の保護観察所長の推薦などが必要だが、地域の人間関係の希薄化などにより、後継者探しは難しくなっている。
また、保護司は支援相手との面会内容などを記した報告書を毎月作成し、保護観察所に提出する必要があり、負担に感じる人が多い。面会も従来は「家庭の温かみを伝える」ことなどを目的に自宅で行っていたが、自宅が手狭などの理由で抵抗を感じる人も増えている。
法務省は報告書のネット提出や自宅以外の面会場所の拡充などの取り組みを進め、負担軽減を図ってきたが、制度の維持が危惧される状況に変わりはない。
このため、同省は5月に大学教授や保護司らが参加する検討会を設置。研修日時の見直しだけでなく、報酬制や公募制導入の是非など、制度の根幹部分を抜本的に改革するかどうかを含め、幅広く議論することを決めた。来年3月に中間とりまとめを行い、25年1月までに報告書をまとめる予定だ。
更生保護制度に詳しい今福章二・中央大客員教授(刑事政策)は「地域の事情に精通し、支援する相手に合わせて柔軟に対応することのできる保護司は更生に不可欠な存在だ」と指摘。その上で「国は保護司の勤務先や社会全体の理解が広がるよう広報活動にも注力し、現役世代など幅広い人材が保護司を務められる仕組みを検討すべきだ」と話している。
からの記事と詳細 ( 高齢化進む保護司、「大量退任」ピンチ…後継難で制度維持に危機感 - 読売新聞オンライン )
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