罪を犯した人らの更生を支える保護司のなり手不足が深刻化している。高齢化により70歳以上が全体の4割近くまで増えた上、78歳以上は再任できないため、大量の退任が今後見込まれる。企業の定年延長などが広がり、働きながら保護司を務める現役世代をどう確保するかが課題。こうした中、公募制の試験導入や新任者の年齢制限撤廃などが来年度以降進められる見通しだ。(杉山弥生子)
大阪市旭区の保護司会で会長を務める仲野喜規さん(63)は、何度も面接した少年から「僕があほだった」と非行を悔いる言葉を打ち明けられたことがある。結婚や子どもの誕生を報告してくる少年もおり、仲野さんは「それぞれが、この地域で更生の道に進んでくれるなら、これほどやりがいがある仕事はない」と語る。
仲野さんが保護司に就いたのは約10年前。家業の不動産管理業にいそしむ傍ら、子どものPTA活動に参加する中で知り合った地域の人に誘われた。これまでに10~60歳代の男女6人を担当。現在も2人の相談に乗っており、30分ほどの面接を月に計4回行っている。
旭地区で活動する保護司は男女38人で、住職ら宗教関係者や自営業者が半数を占める。平均年齢は70歳に近い。面接や保護司の研修は平日に行われることが多く、現役世代の会社員は少ない。仲野さんは「現役世代とつながりを持ちたいのだが……」と漏らす。
犯罪白書によると、刑務所を出所後、2年以内に再び罪を犯して入所する再入率は2020年の場合、保護司の支援対象である仮出所者が10・0%だったのに対し、対象ではない満期出所者は22・6%。仮出所者らを地域社会に受け入れる保護司が更生に果たす役割は大きいことが数字にも表れている。
長年懸案となっているのが、高齢化に歯止めがかからないことだ。法務省によると、今年1月時点で全国に約4万7000人いる保護司の平均年齢は65・6歳。半世紀近く前の1975年と今年を比較すると、70歳以上は17・8%から4割に近い38・5%まで増えている。50歳未満は15・8%から逆に6・4%まで減った。
任期は2年で、何度でも再任できるが、「再任時78歳未満」との年齢制限があり、今後、大量退任が見込まれる。
さらにネックになっているのが、近年進む企業の定年延長や高齢者再雇用だ。総務省によると、60~64歳の就業率は13年の58・9%から22年は73・0%に上昇した。ある保護司は「60歳代前半の人を探してお願いしても、仕事を理由に断られることは多くなった」とこぼす。
法務省は今年5月に大学教授や保護司らが参加する検討会を設置。制度の抜本的な見直しも視野に幅広く議論を進めている。
その中で来年度から試験導入される見通しなのが公募制だ。従来は保護司会の推薦のみだったが、若くて熱意のある人材を確保するため、自ら希望する人にも門戸を開く。各地で開催するセミナーやインターンシップを通じて募集する。保護司になる条件として▽社会的信望▽時間的余裕▽安定した生活――などがあり、面談や書類審査などで適性があると判断されれば法務大臣が委嘱する。
定年後も働き続ける高齢者が増えていることも踏まえ、新任は「原則66歳以下」という年齢制限も25年度から撤廃される方向だ。
法務省が19年に実施した調査(保護司ではない20~60歳代の約5400人が回答)では、保護司になる上で、「報告書の作成と提出」などを負担に感じている人が多かった。こうしたことから、支援相手との面会内容などを記した報告書のネット提出を可能にしたり、保護司の自宅以外の面会場所を確保したりするよう改善された。
保護観察官の経験があり、更生保護制度に詳しい龍谷大・浜井浩一教授は「地域の事情に詳しく、同じ目線で寄り添ってくれる民間の保護司の存在は、再犯を食い止める上で重要」と強調。制度を持続するため、「国が企業などにボランティア休暇の導入を推奨して、現役世代でも取り組みやすい環境を作ったり、地方公務員がなってみたりといった工夫があるといい」と話す。
◆保護司= 刑務所を刑の満期前に仮出所したり、少年院を仮退院したりするなどして、保護観察の対象となった人と定期的に会い、生活上の悩みや就労などの相談に乗る。1950年に制定された保護司法に基づき、法相が委嘱する非常勤の国家公務員に位置付けられているが、給与は支給されない。実質は民間ボランティアの形で行われている。
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