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Thursday, November 2, 2023

焦点:持続可能な農業がもたらすファッションの「グリーン化」 - ロイター (Reuters Japan)

[イズミル(トルコ) 26日 トムソン・ロイター財団] - トルコ、エーゲ海沿岸近くに広がる農場。綿花が芽吹きはじめた畝のあいだには、小麦とテンサイの乾燥した茎が敷き詰められ、焼けつくような炎暑のもとでも、土壌の栄養分と水分を逃しにくくしている。

一方、近くの畑では、こうした保護策なしに栽培されている綿花が、太陽に照りつけられて元気なくしおれている。

「土壌が健康になると、綿花も健康になる」とバサク・エルデム氏は語る。同氏はアイドゥン県ソケ自治体に本社を置く綿製品メーカー、ソクタスが所有・運営する綿花農場のマネジャーだ。

ソクタスは4年前、1ヘクタールの土地を初めて再生農法に転換した。自然に即した手法で土地を回復させ、二酸化炭素貯留能力を改善する農法だ。現在では、1ヘクタール当たり年間18トン以上の二酸化炭素を吸収している。

米環境保護局(EPA)の計算式によると、これはガソリン車約15台が1年間に排出する温室効果ガスに相当する。

ソクタスの農場見学ツアーの中で、エルデム氏は「毎年、結果が上向きになっている」とトムソン・ロイター財団に語った。

ソクタスは2018年、顧客ブランドのステラ・マッカートニーから初めて再生農法を紹介され、現在では保有する土地のうち90ヘクタール相当で再生農法を実施している。

ファッション産業は天然資源の大量使用と廃棄物の大量排出で評判が悪いが、近年では、2050年までに産業全体で脱炭素化を実現するという国連の「ファッション産業気候行動憲章」のもと、環境への影響とカーボンフットプリント(全工程で排出される温暖化ガス)を削減するための努力を強化している。

これまでの取り組みではもっぱら廃棄物の削減に注力していたが、ブランドやデザイナーのあいだでは、綿製品やウール製品など伝統的な生地の製造により排出される二酸化炭素の削減に向けて、再生農法のプロジェクトを支持する動きが拡大している。

世界自然保護基金(WWF)がトルコで開始した再生農法による綿花栽培の試験プロジェクトでは、通常の土壌による二酸化炭素貯留量に比べて、最大15倍もの二酸化炭素を貯留できることが分かった。

非営利団体(NPO)「テキスタイル・エクスチェンジ」では、ファッション業界、繊維業界と協力し、素材が環境に与える影響の低減に取り組んでいる。同NPOで綿花担当マネジャーを務めるギョクチェ・オクル氏は「土壌が以前より柔らかく、生き生きしてくる」と語った。また、従来の農法では土地を耕しすぎるせいで、二酸化炭素を吸収する有機物が死滅してしまうと説明した。

再生農法では、土壌の生物学的組成を維持するため、耕起をほとんど、あるいはまったく行わず、地表を保護するために被覆作物を栽培する、とオクル氏は言う。

またエルデム氏によると、小麦、マメ、テンサイといった被覆作物のおかげで、ソクタスの畑では土壌の有機物含有量が4年間で倍増し、綿花に必要な肥料と水の量は年々減っているという。

<循環型経済>

英産業連盟によれば、持続可能な方法で生産される綿花の需要は増えており、2020年にはグローバルな綿花供給量の20%近くを占めた。

持続可能な綿花栽培への取り組みとして規模が最も大きいのは、ベター・コットン、フェアトレード、オーガニックだ。エレン・マッカーサー財団でファッション部門を率いるジュールス・レノン氏は、再生農法による綿花栽培への関心は高まっており、提携するブランドの中にはデニム製造大手のボッサとDNMの名もあると話している。

「かつては絶対に見られなかったような、極めてしっかりした活動の軸が生まれている」とレノン氏は言う。

「しかし何よりも私たちに求められるのは、既存の製品を使い続けることを最優先にすることだ」と同氏は述べ、循環型経済に移行していくためには、ファッション業界がリサイクルとリユースを最優先とし、未使用の材料へのニーズを減らしていく必要がある、と説明する。

「たとえそうしたニーズが残るとしても、再生農法による作物から供給されることが望ましい」とレノン氏。

欧州委員会は、ファッション企業に対して持続可能な方法で衣料品を生産することを求める規制を計画しており、2028年までにはそうした規制を全て導入したいと考えている。

現在、策定中の規制法案は16件。成立すれば、EU域内に入る全ての製品について耐久性とリサイクル可能性の最低基準が設定され、ファッション企業に対し、繊維製品の廃棄物を回収するよう義務づける可能性がある。

慈善団体のローデス財団でファッション問題担当部門を率いるアニタ・チェスター氏は、「EUは市場として大きいだけに、こうした規制は調達慣行全体を変えていくための大きな推進力になるかもしれない」と語る。同財団は「グリーン・トランジション」に関するトムソン・ロイター財団の報道に資金支援を提供している。

再生農法の採用はまだ初期段階にあり、これに関する法制化の動きはほとんど見られないが、EUで提案されている土壌衛生法など、既存の政策の中にもグリーン・トランジション支援に役立つものがある、とチェスター氏は続けた。

<公正な移行>

チェスター氏によれば、リジェネラティブ・オーガニック・アライアンスやリジェナグリが提案するものなど、再生農法に関する規格や認証も登場しつつあるが、ブランドやデザイナーは、まず農家への投資を通じて、彼らの再生農法への移行を後押しすべきだという。

「公正さがなければ、何ごとも再生可能になりえない。自然の世話役としての農家の働きと、気候変動対策のために農家が提供するサービスに対して見返りを与えることによって、コミュニティーとしての回復力(レジリエンス)を育まなければならない」と、チェスター氏は語る。

ソクタスの取締役、ゼイネップ・カイハン氏は、再生農法による綿花は価格が高くなるため、ブランドによっては切り替えを受け入れてもらいにくい、と指摘する。

カイハン氏によれば、土壌検査や認証、無耕起方式の機械への投資といった追加コストが必要なだけではなく、再生農法を導入した当初は、土壌改善が進むまでの収量低下による減益を覚悟しなければならないし、二毛作で冬季に栽培可能な作物の代わりに、収穫対象ではない被覆作物を植えなければならないという。

「移行すればコストが上昇する。しかし時間が経てば、(肥料などの)インプットを減らせるので、収支が安定するときが訪れる」とカイハン氏は語る。

また土壌の健全性が向上すれば、綿花産業に打撃を与えている気候変動の影響に歯止めをかける上でもプラスになる。

ウイリス・タワーズワトソン(WTW)の調査では、全ての綿花栽培地域のうち半分で、2040年までに水不足や異常気象といった気候関連リスクによる脅威が増大するという。

「今後は、水分の維持がこれまで以上に重要になる。土壌が水や栄養分を保持できることがわかれば、水の必要量が減るのだから」とカイハン氏は語る。

エルデム氏によれば、今春、ソクタスの農場でも豪雨により綿花の種子に被害が出たが、再生農法の畑では土壌の健全性が高いため、種の蒔き直しもうまくいったという。

「あらゆる農家が再生農法をやるようになれば、気候も変わるのではないか」。エルデム氏はそう語った。

(翻訳:エァクレーレン)

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