[ワシントン 14日 トムソン・ロイター財団] - 住宅の購入は、今も多くの人にとって、アメリカンドリームの大切な一部だ。ローラ・アルセ氏は、ヒスパニック系世帯がもっと住宅を購入できるよう支援に奔走している。だが、心配事もある。銀行が、低価格住宅購入のための融資にますます消極的になっていることだ。
全米レベルで見ると、ヒスパニック系米国人の住宅保有率は白人系米国人に比べて約4分の1低く、コロナ禍以降、この格差はさらに広がっている。住宅購入意欲の低さによるものではなく、雇用形態の違いによる部分がある、とアルセ氏は言う。
「ヒスパニック系は自宅を保有することをとても重視している」とアルセ氏は言う。同氏は、市民権擁護・啓発団体「ウニドスUS」が推進する、2030年までに400万人のヒスパニック系住宅所有者を生み出そうというキャンペーンを率いている。
「家族の中で誰が最初に住宅を購入できるかというのは、よく話題に上るテーマだ。米国社会の一員になるという点でも大きなステップだ」
ウニドスUSでは、比較的若い世代が多いヒスパニック系住民は、今後数十年、住宅の初回購入者の主力になるとみている。
問題は、その夢をかなえるための資金を用意できるかどうかだ。住宅価格が上昇する中、コストがかさみ、規制も厳しくなっていることから、銀行は15万ドル(2200万円)以下と定義されることもある小口の住宅ローンに消極的になっている。
住宅ローンの供給が不足するようになったきっかけは、2008-09年の金融危機だ。担保となっていた住宅が大量に差し押さえられ、企業による住宅保有が増加し、住宅建設は減速。新たな銀行規制も導入された。
アルセ氏はトムソン・ロイター財団の取材に対し、「利用できる住宅ローンも、融資市場の活気も、とにかく消えてしまっている。住宅ローンという商品に力を入れようというインセンティブが用意されていない」と述べた。
その結果、ヒスパニック系などの人々はノンバンク系の融資に頼るようになっている。アルセ氏は、「多くの人々が違法スレスレの悪徳業者の餌食になりかねない」と言う。
というのも、法的支援団体によれば、こうしたノンバンク系融資はハイリスクでコストも高く、消費者保護制度の対象にもなっていない場合が多いからだ。
当局も、ヒスパニック系コミュニティでは住宅保有が重要な資産形成の機会であることを認識しており、この問題を注視している。
住宅都市開発省の広報官によれば、住宅問題を所管する連邦当局者は、小口住宅ローンについて市民の意見を聴取しており、次の一手を模索しているという。
考えられるのは、住宅価格が比較的低く、住宅ローンの提供が不十分な市場において、手頃な価格の住宅を所有する機会を拡大する政策を推進することだ。
7月に「乱用的な」代替金融に関する公聴会の議長を務めたティナ・スミス上院議員は、小口の住宅ローンを提供したいというインセンティブに対応すれば、「搾取的になる恐れのある」ローン組成に対する需要は減るだろうとみている。
同議員は電子メールで「不謹慎な住宅販売業者がこのような問題を利用し、弱い立場の住宅購入者を食い物にするのは間違っている」とのコメントを寄せた。
<額は小さくても大きな問題>
ピュー・チャリタブル・トラストによると、2004年から2021年にかけて、小口住宅ローンによる融資が約70%減少する一方で、金額の大きな住宅ローンによる融資は52%増加したという。
同トラストで住宅政策イニシアチブのプロジェクト責任者を務めるアレックス・ホロウィッツ氏は、近年では15万ドル以上の住宅購入者の71%が住宅ローンを利用しているのに対して、それ以下の価格帯では26%にすぎなかったという。
「小口住宅ローンが本当に利用しにくくなっていることを示唆している」とホロウィッツ氏は言う。
「これが低価格住宅の所有率が低下している第一の理由で、住宅価格の低い地域や黒人世帯、高い家賃で賃貸住宅を利用しているヒスパニック系住民が影響を被っている。この問題を解決できれば、得るものは大きい」
ホロウィッツ氏は、住宅価格の急騰や手頃な価格の住宅の不足、そして金融危機後の規制の変更で住宅ローンを利用するためのコストが3倍近くに膨れあがったことを要因として指摘する。
米抵当銀行協会で業界分析を担当するマリーナ・ウォルシュ氏は、「実際に好調な市場においては特に、融資側にとっての収益性という点で(小口住宅ローンを組むことを)正当化するのは難しい」と語る。
一方でウォルシュ氏は、主として問題なのは、住宅の供給が需要に追いついておらず、価格を押し上げていることだと言う。
「融資の金額は小さくても、問題としては大きくなっている」
ラテンアメリカ系や新規移民らの「金融包摂」に取り組む約140の信用組合からなる「フントス・アバンサモス」(スペイン語で「ともに前進」)という団体がある。これを率いる「インクルーシブ・ネットワーク」のパブロ・デフィリッピ執行副社長は、小口住宅ローンの提供を目指している金融機関もあると話す。
「住宅ローン部門は、私たちが最も大きな影響を受け、最高の業績を上げている分野だ」とデフィリッピ氏は言い、需要の大きさと返済遅延の少なさを指摘した。「加盟する信用組合はこれを、市場機会であると同時に、自分たちの使命と合致しているとも考えている」
<「自己防衛が不可能な状況」>
前出のホロウィッツ氏によれば、住宅ローンが不足しているせいで、賃貸に頼るか、他の購入手段を模索するようになる人が増えている。昨年、住宅購入のために融資を受けた米国民の約15人に1人がノンバンク系融資を利用しており、ヒスパニック系の住宅購入者が最もリスクにさらされているという。
全米消費者法センターで啓発担当共同ディレクターを務めるサラ・ボリング・マンシーニ氏は、「こうしたハイリスクの要因によって、(住宅購入者が)自己防衛の不可能な状況に追い込まれてしまうというのは最悪の事態だ」と語る。
マンシーニ氏は、金融危機以降、法人家主が住宅ローンの代替となる住宅取得方法を提供する傾向が強まっていると語った。例えば、不動産割賦購入契約と呼ばれる方法では、購入者は数年かけて住宅代金を支払うことになる。
だが、支払いが完了するまでは購入者は所有権を得られないため、債務不履行が発生した場合には、住宅も支払い済みの金も失ってしまう可能性がある。
マンシーニ氏は、アトランタ地域での元クライアントの例を挙げ、リスクの理解が出来ていない人も多いと指摘する。2018年の訴訟によれば、このクライアントは、通常の住宅ローンの条件で低価格住宅を購入したと思っていたが、経済的な事情で債務不履行に陥ってみると、実際にはそうではないことが分かったという。
非営利団体(NPO)「ミッドミネソタ・リーガルエイド」で指導弁護士を務めるエリザベス・グッデル氏は、ジョージア州など他の多数の州と同様、ミネソタ州にも、こうした契約に対するしっかりした規制がないと語る。同NPOでは、金融危機後にはこうした事例を「多数」確認しているという。
「頭金は(通常の住宅ローンを利用する)購入者が支払うものと大差ないため、本当に騙されてしまう人もいる」とグッデル氏は言う。
「だが、分割返済の契約は3年から5年で終わってしまう。その後は、何とかして残額を用意するしかない」
グッデル氏によれば、ミネソタ州などの地域では住宅購入者を保護するための取り組みが進行中だ。特に、賃借人保護の範囲を不動産割賦購入契約にも拡大するバージニア州法からヒントを得ているという。
<コミュニティ規模の取り組みも>
ウィンストン・セーラム州立大学(ノースカロライナ州)経済的流動性研究センターの所長を務めるクレイグ・リチャードソン氏によると、小口住宅ローンが利用しにくいと、コミュニティにも悪影響が及びかねないという。
貧困層の多い東部ウィンストン地域では、小口住宅ローンの利用ができないせいで、金融危機後の回復が妨げられる一方で、企業による所有が進み、市場に出回る住宅がどんどん賃貸に回ってしまった可能性があるとリチャードソン氏は指摘する。
リチャードソン氏は共同執筆した最近の論文で、2013年以降、「この市場で業務を行っていた銀行が本格的に撤退してしまったため」、東部ウィンストンの不動産価値はウィンストン・セーラムの富裕な地域に比べて45%以上も下落したと指摘している。
これは悪循環を呼んだ。リチャードソン氏によれば、15年前には、この地域の住宅の約70%は自己所有だったが、現在その比率は3分の1以下になっているという。
このことが同地域の経済の低迷につながっているとリチャードソン氏は言う。「市内のこちら側に進出するよう投資家を説得するのが非常に困難になってしまった」
(翻訳:エァクレーレン)
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