POINT
勤務先で不正が行われているのに気付いたら、皆さんはどうしますか?「面倒に巻き込まれたくないから、見て見ぬふりをする。」という人もいるかもしれません。公益通報者保護法という法律により、公益通報に当たる通報であれば、通報者は内部通報をしたとしても、通報したことを理由とする不利益な取扱いから保護されます。また、内部通報は、組織にとって自浄作用を発揮させるきっかけにもつながります。内部通報制度を積極的に活用して、企業内の不正などを早期に発見し、企業の信用を失わないような仕組みを作りましょう。
1内部通報制度とは?
内部通報制度とは、企業が企業内の不正を早期に発見して企業と従業員を守るため、組織内の不正行為に関する通報・相談を受け付け、調査・是正する制度です。
公益通報者保護法により、従業員数(アルバイトや契約社員、派遣労働者等も含む。)が300人を超える企業には、内部通報制度の導入が義務付けられています。
また、従業員数が300人以下の企業にも、内部通報制度の整備に努めることが求められています。
企業は通報者や相談者に不利益な取扱いをすることが禁じられており、通報窓口などの担当者には通報者を特定させる情報の守秘義務が課せられています。
企業の規模や従業員数にかかわらず、内部通報制度を整備していない場合、消費者庁による行政措置(報告徴収、助言、指導、勧告)の対象となり、企業名が公表されることもあります。報告徴収に応じない、又は虚偽報告をした場合は、20万円以下の過料を科されることがあります。
2内部通報制度の活用は、大きなメリットがある
これまでに多くの企業などの不祥事が従業員による内部通報によって発覚してきました。消費者庁が実施した調査では、不正発見のきっかけの第一位は「内部通報」が58.8%で、「内部監査」を上回っています。
通報者の秘密を守り、通報したことを理由とした不利益な取扱いをしないことを従業員に約束する内部通報制度を積極的に活用している企業は、投資家からも高く評価されています。
一方、不正行為が放置される企業は、内部通報制度を導入していなかったり、導入していても「従業員からの通報がなかった」「従業員が通報窓口の存在を知らなかった」など、制度が形骸化していたりするケースが多く見られます。
近年はSNSの普及などを背景に、企業内の不正や不祥事といった情報が外部に流出しやすく、いったん流出すると瞬く間に世界中に拡散される可能性があります。もちろん、そういった外部への情報提供が、外部通報として保護され、外部通報を通じて違法行為の予防・抑止につながることもありますが、内部通報制度を積極的に活用することで、企業内の不正や不祥事を早期に発見し是正することができれば、比較的早期に、企業と従業員を守ることができます。
3通報できる人と事例、通報先や通報方法
内部通報制度の整備義務を定める公益通報者保護法は、従業員が勤め先の不正行為を通報したことを理由とする解雇や降格、減給、不自然な異動など不利益な取扱いから保護されるための条件も定めています。「誰が」「どのような内容について」「どこに」通報するかなど一定の条件を満たすものは、「公益通報」として保護の対象になります。具体的には、次の三つの条件になります。
通報できる人は、従業員、役員、退職者
公益通報者保護法によって保護される通報者は、正社員や公務員、派遣社員、アルバイト、パートタイマーのほか、業務委託先の社員やアルバイトも含まれます。また、勤務先を退職してから1年以内の退職者や、派遣先での勤務終了から1年以内の退職者も含まれます。さらに、取締役や監査役などの役員も含まれます。
なお、企業で体制を整備する場合、公益通報者保護法で保護される人のほか、子会社や取引先の従業員、役員などの通報も積極的に受け入れることで、企業グループ全体の不正行為の早期発見と是正に取り組むことにつながっていくと考えられます。
通報できる事例は、犯罪行為や過料などに当たる行為
公益通報者保護法では、全ての法律への違反が通報対象になるわけではありません。通報対象と認められるには、通報内容が、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護」に関わる法律(約500本)に規定する犯罪行為、過料対象行為、又は刑罰若しくは過料につながる行為である必要があります。
- 通報対象となる行為の具体例
- 部長が会社の資金を横領している。
- 自動車修理工場で自動車を故意に傷つけ、保険金を不正請求している。
- 役員が業務委託先の社員に性犯罪行為をしている。
- 安全基準を超える有害物質が含まれる食品を販売している。
- 残業代の不払いや労災隠しをしている。
- 産地表示を偽装して別の産地を表示して商品を販売している。
- リコールに相当する不良車が発生したにもかかわらず、虚偽の届出をしている。 など
公益通報対象外の通報はどう扱えばいい?
公益通報の対象とならない通報については、労働法のルールが適用され、権利の濫用と認められる出向命令や懲戒、解雇などは無効となる場合があります。経営者は、法令違反行為全般、自社の内部規程違反に関する通報や相談も積極的に受け入れて調査・是正し、通報者を不利益な取扱いから守る姿勢を示すことが望ましいでしょう。
内部通報窓口では、匿名の通報を受け付ける必要がある?
公益通報者保護法では対象となる通報を実名の通報に限定していません。したがって、匿名であっても同法が定める要件を満たせば公益通報に該当するため、内部通報窓口では、匿名の通報を受け付ける必要があります。
通報先は、勤め先、行政機関、報道機関など
公益通報の対象となる通報先は、勤め先、行政機関、報道機関などです。これらには優先順序はなく、通報者は自由に通報先を選んで通報することができます。なお、それぞれ不利益な取扱いから保護されるための条件が異なります。
勤め先(内部通報窓口・上司など)
勤務する企業の内部通報窓口や、勤務先が委託する法律事務所・内部通報窓口対応業者などがあります。また、管理職や上司も通報先となる場合があります。
- 保護の条件
- 通報する不正が実際に生じている、又は生じようとしていると思われる場合
行政機関
通報された事実について、処分又は勧告等の権限を有する行政機関が通報先になります。通報した行政機関が適切でなかった場合、その行政機関は適切な通報先を通報者に紹介する義務があります。
- 保護の条件
- ①不正があると信じるに足りる相当の理由(目撃情報、証拠など)があること、又は②不正があると思い、かつ、氏名などを記載して提出すること
報道機関など
報道機関や消費者団体、労働組合など、そこに通報することが被害の発生や拡大を予防するために必要であると認められるものが通報先になります。
- 保護の条件
- ①不正があると信じるに足りる相当の理由(目撃情報、証拠など)があること、又は②証拠が隠滅されるおそれが高いなどの事情があること。
通報の方法は、通報先により異なる
公益通報の通報の方法は、通報先によって異なります。電話、電子メール、FAX、郵送又は面談など複数の通報方法を設けている場合もあります。
コラム:パワハラやセクハラは内部(公益)通報に該当するの?
いわゆるパワー・ハラスメントやセクシュアル・ハラスメントには、様々な行為があります。その中でも、ハラスメントが暴行・脅迫や不同意わいせつなどの犯罪行為に当たる場合は、公益通報者保護法によって保護される内部通報に該当します。
4企業が内部通報制度を導入するには
企業が内部通報制度を導入する際には、おおむね以下の手順に従って進めます。
消費者庁では、経営者による内部通報体制の整備を促進し、企業における不正の早期発見・是正を促すために、「内部通報制度導入支援キット」を策定・公表しています。キットには経営者・従業員それぞれを対象としたリーフレット・動画のほか、企業が策定しなければならない「内部通報に関する内部規程」のサンプルなども含まれています。 内部通報制度をまだ導入していない、又は導入しているが上手く活用できていない経営者は、是非、内部通報制度導入支援キットを活用して内部通報制度の導入・見直しを進め、不正行為から大切な従業員と企業を守りましょう。
【関連サイト】消費者庁「はじめての公益通報者保護法」まとめ
「内部通報制度」の活用は、企業内の不正を早期に発見・是正し、企業や従業員を守ることにつながります。公益通報に当たる通報であれば通報者が保護されるため、万一、不正を発見したら早期に通報し、不正行為を止めることが重要です。
(取材協力:消費者庁 文責:政府広報オンライン)
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