2022年10月21日
一般社団法人 日本経済団体連合会
イノベーション委員会
医療情報の研究開発での活用を促進するための次世代医療基盤法の5年後見直しに向けて、「中間とりまとめ」(2022年6月公表)に基づき具体案が検討されている。
EUのEuropean Health Data Space(EHDS)など世界的なの動向も注視しつつ、健康・医療データの利活用によって医療分野の研究開発や新産業の創出を促進し、もって健康寿命社会の形成に資するという本法の目的を達成するために必要な点を以下に掲げる。
Ⅰ.利活用促進に向けて
1.取り扱いデータの範囲
数が少ない症例や特異値、ゲノム情報は、創薬研究等において特に重要なデータであることから、その活用を推進する仕組みとすべきである。本人の権利利益を保護するために「データの性質に応じて求められるガバナンス」を講じるとともに、仮名化したうえで創薬等の目的で提供可能とするなど、特異値やゲノム情報を残したまま活用が可能となるような仕組みを求める。
また、死亡に関する情報は副作用及び有効性のいずれの観点からも非常に重要なアウトカム情報であるため、本人通知ができない死亡者のデータや、死亡に関する情報についても利用できるようにすべきである。
2.データ提供の形態
医療分野の研究開発にあたっては、データサイエンティストが元データにアクセスするニーズも高い。統計情報・匿名加工医療情報の提供以外に、例えば同一企業内などデータガバナンスが確保される一定の条件下において、個人を特定できない仮名加工データ相当のデータに研究者がアクセスできるような提供形態を早期に実現すべきである。
3.原資料との信頼性を担保する運用手順
医薬品の承認申請においては申請者(製薬企業等)が原資料と申請資料などとの信頼性を担保する必要があるが、本法のもとでは認定事業者が保持する元データへのアクセスが認められていない。医薬品の承認申請資料としての利活用を促進するためにも、原資料との信頼性を担保する運用手順を早期に明確化すべきである。
4.認定事業者側の先進的技術の適用
認定事業者側では、新しいハードウェア・ソフトウェアの利用が考えられる場合に、その認定・了承を取得するために1年以上の期間を要している。利活用者への迅速な対応が叶わず、研究の時期を逸するとともに、対応工数も増加し、事業運営上の負担にもなる。また、利活用者の求めに迅速に応えることができず、認定事業者として投資判断が下せないケースも発生する。そのため、迅速審査などの仕組みの整備、あるいは、一定のハードウェア・ソフトウェアの変更はあらかじめ軽微な届出として認めるなどの整理を行うべきである。
5.利活用者に対する規制
「利活用者による匿名加工医療情報の適切な取扱いに関する規制をさらに強化する」とあるが、本法のもとで扱う情報は、特定の個人の識別や当該医療情報の復元が不可能な情報であるところ、必要以上の規制強化は利活用者の負担となり、利活用の障害となることから避けるべきである。
6.データ価格の適正化や透明化
データ流通を促進する観点で、データの価格の適正化や透明性を確保する仕組みも検討すべきである。例えば、ある程度データ利活用が促進されるまでの措置として、データ量等に応じた価格表の公表についても検討すべきである。
Ⅱ.医療情報収集促進に向けて
1.医療機関等へのインセンティブ
多様なデータを個人単位で名寄せしライフコースデータとして整理するためには、現在データ収集の中心となっている急性期病院以外の医療機関や地方自治体の協力が必要である。データ提供に係る医療機関の負担軽減やインセンティブなど、より多くの医療機関等から協力が得られる具体的な仕組みを明示すべきである。
2.患者へのオプトアウト通知および停止申請
患者へのオプトアウト通知および相談・停止申請の受付は、医療機関の規模が大きくなるほど事務負担が大きくなっている。医療機関による患者への通知事務負担の軽減のため、ポスターに印刷されたQRコード等によりスマートフォン等の機器上での通知文書の誘導、閲覧をもって通知と見なすことについても検討すべきである。
Ⅲ.次世代医療基盤法以外の課題について
EUでは個人情報保護に関する一般法であるGDPRが存在するが、健康・医療データの1次利用及び2次利用を推進するために、データ基盤構築と利活用目的や禁止事項等を総合的に定めるEHDSの概要と法案を公表した。これが実現すれば、5億人規模の健康・医療データ基盤が構築されることとなる。
次世代医療基盤法の見直しは、医療情報の研究開発での活用を促進するために必要不可欠な取り組みであり、大きな期待をするところである。今後も継続して実態に合わせた見直しを定期的に実施いただきたい。一方、そもそも次世代医療基盤法は、データを加工する民間事業者を国が認定するひとつの仕組みであり、わが国の健康・医療データの利活用を真に促進するためには、国の主導のもと、例えば、電子カルテ情報の標準化、診療記録請求・受領のデジタル化、倫理審査体制の整備、不利益の防止といった課題も併せて解決していく必要がある。また、法制度の整備やデータ基盤の構築とともに、国民の信頼獲得・理解醸成を図るべく、国民の視点に立った国としてのビジョンやロードマップを、関係各省が連携して策定し、提示することも必要である。今回の次世代医療基盤法の見直しに加えて、これらの点についても引き続き検討し提言していく。
以上
からの記事と詳細 ( 経団連:次世代医療基盤法見直しに関する意見 (2022-10-21) - 日本経済団体連合会 )
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