薬の錠剤やカプセルが入った「PTPシート」。これまで大半が焼却処分されてきたが、使用後にアルミニウムとプラスチックに分離し、資源として再利用する試みが広がりつつある。金属価格の高騰やプラスチック資源循環促進法の施行などでリサイクルの機運が高まった。回収方法を工夫し、患者への服薬指導の充実につなげようという動きも出ている。 (植木創太)
横浜市中区のドラッグストア「トモズカトレヤプラザ伊勢佐木店」。今月中旬、調剤室前のPTPシート回収箱をのぞき込みながら、店長の満瀬朋実さん(28)が「年末に回収したのにもう満杯」とほほ笑んだ。市外から使用済みシートを持ち込む人もいるという。
製薬大手の第一三共ヘルスケア(東京)が横浜市などの協力を得て昨年十月に始めた実証実験「おくすりシート リサイクルプログラム」の一環。市内の薬局や病院、公共施設など四十カ所に回収箱を置き、九月までの一年で百キロ程度を集める計画だ。持ち込んだ人は量に応じてポイントがもらえ、集めるとNPOなどに寄付できたり、景品と交換できたりする。
飲み忘れ防止などのため数錠単位に切り取ったシートも対象で、購入場所や製薬会社も問わない。回収したシートのリサイクルを手がけるテラサイクルジャパン(同市)の代表、エリック・カワバタさん(55)によると、医薬品を保護するPTPシートには高品質で高純度のアルミニウムが使われており、「うまく集め、分離すれば、プラスチックも含めて活用法はたくさんある」。第一三共の事業担当者、阿部良さん(46)は「将来的には業界全体に輪を広げ、大きな取り組みに育てたい」と話す。
富士キメラ総研(東京)によると、PTPシートの国内販売量は年間約一万四千トン。高齢化に伴う薬の需要増で増加傾向だ。一方で、アルミニウムとプラスチックを分離するには細かく裁断したり、素材に応じた温度で加熱したりと手間がかかるため、ペットボトルやアルミ缶のようなリサイクルの仕組みが整っていない。使用後は大半がごみとして捨てられてきた。
廃棄物処理業のオリックス環境(同)は昨年十一月、アルミニウムとプラスチックに分離する技術の特許を持つ大同樹脂(長野)と提携し、千葉県船橋市の自社工場を拠点にシートのリサイクルを事業化すると発表した。各地の製薬工場で出た余剰シートを引き受ける計画で、年間千トン程度の処理を見込む。営業部の滝本智明さん(48)は「製薬会社の期待を感じる。なんとか軌道に乗せたい」と意気込む。
服薬指導にも生かそうと、名古屋市立大薬学部は今春から、かかりつけ薬剤師が慢性疾患患者から使用済みシートを回収し、適切に服薬できているかを確認することで治療の質を高める研究を始める。愛知県内の薬局やドラッグストア、病院計九カ所で実施予定。使用済みシートを基に残薬を把握して処方量を調整し、医療費の削減にもつなげる狙いだ。薬学部の臨床薬学教育研究センター講師、堀英生さん(46)は「PTPシートのリサイクルが身近になるということは、市民の薬に対する意識も高まるということ。誰もが取り組みやすい形を見いだせれば、メリットは大きい」と広がりに期待する。
<PTPシート> 湿気やにおい、光などの刺激から薬を守り、効果や品質を保つ包装資材。PTPは「プレス・スルー・パック」の略。プラスチック部分を押すことでアルミニウムが破け、中の薬を1錠ずつ取り出せる。
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