(ニューヨーク)- インド政府は、2022年11月10日に行われた国連人権理事会の普遍的定期的審査(UPR)プロセスで国連加盟国が行った勧告を速やかに採用し、行動に移すべきだと、6つの国際人権団体が本日述べた。一連の勧告では、マイノリティのコミュニティと脆弱な集団を保護すること、ジェンダーに基づく暴力に正面から取り組むこと、市民社会の自由を擁護すること、人権活動家を保護すること、拘禁中の拷問を廃止することといった、深刻な懸念が列挙されている。
発表を行った6団体は、国際人権連盟(FIDH)、世界拷問禁止機構(OMCT)、CSW(クリスチャン・ソリデリティ・ワールドワイド)、国際ダリット連帯ネットワーク、アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチである。
すべての国連加盟国は、国内の人権問題を検証し、自国の人権状況の改善に向けた行動を提案する普遍的定期的審査プロセスに参加している。インド政府は、審査に先立ち国連に提出した報告書で、「人権の促進と保護にしっかりと取り組んでいる」と主張した。しかし、これまでのUPRサイクルで、インドは重要な勧告を無視している。たとえば、宗教的少数派に対する暴力の増加への対処、治安部隊の説明責任(アカウンタビリティ)の実現、表現と平和的集会の自由の保護などだ。
インドにとって4回目となる今回の定期審査では、130の加盟国による339点の勧告により、同国でとくに緊急性の高い人権上の懸念が浮き彫りになった。
2017年の前回審査以降、インドはヒンドゥー・ナショナリズムを掲げるインド人民党(BJP)を率いるナレンドラ・モディ首相のもとで、人権面では深刻な後退を見せている。政府は独立した民主的な機関への弾圧をエスカレートさせ、強硬な対テロ法や治安関連の法律により、人権活動家、ジャーナリスト、学生、反体制派、平和的なデモ参加者を訴追し、嫌がらせを行っている。宗教的少数派への攻撃、差別、扇動は増加している。伝統的に差別されてきたダリット(カースト制度での最下層民)やアーディワーシー(先住民、トライブ)のコミュニティは、法による正義と平等な保護を受けられない状態が続いている。
少なくとも21カ国がインドに対し、宗教的少数派について信教の自由と権利の保護を充実させるよう促した。また複数の国が、暴力やヘイトスピーチが増加していること、また政府が「改宗禁止」法などの差別的政策を採用していることに懸念を表明した。
モディ氏が党首を務めるBJPは、2014年に政権を獲得して以来、宗教的少数派、とくにムスリム(イスラーム教徒)に対する差別を合法化し、暴力的なヒンドゥー教徒の多数派支配を可能にする、さまざまな立法措置などを行っていると、上記6団体は指摘した。
政府は2019年12月、ムスリムを差別する市民権法を成立させ、史上初めて宗教を市民権の根拠とした。2019年8月には、ムスリムが多数派を占める唯一の州ジャンムー・カシミール州に認められた憲法が保障する自治権を取り消し、同州での表現の自由、平和的集会などの基本的権利を制限し続けている。2018年10月以降、インド当局は、生命と安全のリスクがあるにもかかわらず、少なくとも13人のロヒンギャ・ムスリム難民をミャンマーに送還している。
州政府は、牛の屠殺を禁じる法律を根拠として、ムスリムの家畜商人を起訴している。さらにBJP系のグループが、牛肉を食べるために牛を殺したり取引したりしたという噂を使ってムスリムやダリットを襲撃している。少なくとも10州では強制改宗が禁じられているが、当局はこの法律を悪用しキリスト教徒を標的にしている。また、こうした法律を用いて、ヒンドゥー女性と交際しているムスリム男性に嫌がらせをし、逮捕している。2022年を通じて、BJPが政権にある複数の州政府で、当局はコミュニティ同士での争いが起きた際の暴力に責任があるとし、超法規的懲罰または集団への懲罰として、裁判所の許可やデュープロセスを経ることなくムスリムの家屋や建物を破壊している。
20カ国が、インドは表現と集会の自由をもっと保護すべきであり、市民社会組織、人権活動家、メディアが活動できる環境を整えるべきだと述べた。このうち一部の国からは、活動家、ジャーナリスト、宗教的少数派コミュニティのメンバーに対し、テロ対策法である非合法活動防止法(UAPA)が用いられていることへの懸念が表明された。長年にわたり、人権団体や複数の国連人権専門家が、国際人権基準に適合していないと広く批判されているこの法律が、表現の自由や平和的集会の基本的権利を行使した活動家などを拘束するために使用されていることに懸念を表明している。
多くの国が外国寄付規制法(FCRA)に懸念を示し、非政府組織(NGO)に対する海外からの資金提供を規制する同法の見直し、または、国際人権基準に沿った改正を行うようインド政府に求めた。
インド当局はこの法律を使い、数千におよぶ市民社会組織、特に人権や社会的弱者の権利を擁護する団体について、海外からの資金援助を絶ってきた。複数の国連機関は、この法律が反体制派を封じるために利用されていると警告している。2020年10月、ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官(当時)は、この法律が「NGOに対して、反体制的な性質をもつと当局が認識する人権問題の報告やアドボカシーを思いとどまらせるか、罰するために実際に用いられている」と述べている。
19カ国が、インドが1997年に署名したがいまだ批准していない国連拷問禁止条約を批准すべきとした。インドは2012年と2017年のUPRサイクルで、条約批准に向けて引き続き真剣に取り組むと述べていた。しかし、警察など治安部隊が情報収集や自白の強要のためだとして、拷問などの虐待行為を日常的に実施しているにもかかわらず、その約束を果たすための措置をとっていない。
また、各国はインドに対し、カーストに基づく差別に対処すること、貧困を是正し、ヘルスケア、安全な飲料水、衛生へのアクセスを改善し、すべての子どもに無料で良質な教育を提供することを目的とした取り組みを強化すること、清潔かつ健康で持続可能な環境を確保すること、子ども、女性、障がい者の保護を強化することを求めた。
インド政府はこれまでに「UPRはインドが全面的に支持する重要なメカニズム」であり、世界最大の民主国家として、インドは最高水準の人権保障にコミットする」と述べている。
インド政府は、UPRで他の加盟国から示され、人権団体や複数の国連機関によって広く共有されている懸念事項についてフォローアップを行い、これまでの方針を修正し、全国民の権利と尊厳を守るための措置を直ちに講じる必要があると、上記6団体は述べた。
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