人々のクリエイティブな発明に権利を与え、保護する特許権。ソフトバンクは国内外あわせて約2,000の特許を保有しており、その特許権が保護する発明は、モバイル通信技術だけではなく、AI技術や電池関連技術など、多岐にわたります。
ソフトバンクでは、社員の優れた発明を社長が表彰する「特許賞」を新設するなど、優れた発明を生み出す風土を醸成する取り組みを行っています。ソフトバンクの特許への「攻め」の取り組みについて法務・リスク管理本部 知的財産部の中谷に話を聞きました。
サービスの価値を高める。ソフトバンク独自の強みで特許権を取得
皆さんは、知的財産権と聞いてどんなものを想像しますか? 知的財産権と一口に言ってもこれには、特許権、意匠権、商標権といった特許庁の審査をクリアして初めて発生する権利や、著作権のように創作の瞬間から自動的に発生する権利などが含まれています。
知的財産権の一例
- 特許権…発明を保護
- 意匠権…物品のデザインを保護
- 商標権…商品やサービスの「名称」や「マーク」などを保護
- 著作権…文芸、学術、美術、音楽、プログラムなどの精神的作品を保護
今回は知的財産権の中の「特許権」に焦点を当てて話を聞いていきます。
話を聞いた人
ソフトバンク株式会社 法務・リスク管理本部 知的財産部 特許管理課 課長
中谷 寛樹(なかたに・ひろき)
2017年入社、2019年に特許管理課 課長に就任。弁理士。特許管理課では、特許権取得から係争対応まで特許業務を一気通貫で遂行するほか、共同研究の契約締結支援やグループ会社の知的財産業務支援など幅広い活動を行っており、その活躍の幅を年々拡大している。
今日はよろしくお願いします。そもそも、特許権で発明を保護することでどのようなメリットが生まれるのでしょうか?
特許権を平たく言うと「自分の発明を他者に勝手にマネされないようにする権利」です。特許権を取得しないと、独自の機能や技術が他社によって模倣されてしまうかもしれません。これでは、研究開発に投資を行わない企業のほうがコスト面で有利になるという不公平な状態になってしまいます。特許権を保有することによって、自社が開発した技術を模倣されることから守り、市場においてその独自性を維持できます。
さらに、多くの特許権を保有することは、技術的先進性が特許庁という公的な機関によって認められていることの証です。このような実績は、オープンイノベーションの際のパートナーシップ形成においても、技術力をアピールするための有力な材料となりえます。
他社による発明の模倣を防ぐことで、技術の独自性のアピールにつながる。ソフトバンクでは特許権についてどのような取り組みをしているのか教えてください。
私たちは常に「攻めの特許」を意識しています。例えば、法人のお客さまがITソリューションをどのベンダーに発注しようか悩んでいる状況を考えてみましょう。当社の営業活動を通じてそのお客さまが、当社のITソリューションの独自機能を気に入ってくれたとします。その際、その独自機能についてソフトバンクが特許権を取得していることをお客さまに知っていただければ、ソフトバンクを選んでいただくチャンスにつながります。当社の独自機能が特許権で保護された技術であることをしっかりとアピールしたいと考えています。
「攻めの特許」を実現するために、重要なことはありますか?
強い特許権を取得するためには良い発明が創出されなければなりません。そのためには、新しい技術やコンセプトを市場展開したときに生じる新しい「課題」に、世界の誰よりも早く気が付くことが重要です。そういう意味では、最先端技術を市場にいち早く投入するソフトバンクは発明を創出しやすい立ち位置にあるとも言えます。
そのため、ソフトバンクでは技術開発部門だけでなく、営業部門の担当者も発明者となることが珍しくありません。会議室の予約や空調管理などオフィスのスマート化を支援するスマートオフィスサービス「WorkOffice+」や、USIMカード個包装などが、その良い事例です。
基本的には、発明者本人から特許出願の相談を受けることが多いのですか?
技術開発部門からは知的財産部に直接相談が寄せられることが多いですが、営業などその他の部門では、われわれから情報収集する場合もあります。「WorkOffice+」を例にとると、法人営業部門の週次定例会に知的財産部が参加し、そこで話し合われる事業課題から発明を見つけて、ソフトバンク独自の機能や特色について多数の特許出願を行いました。
知的財産部側から積極的に声をかけているのですね! 他にはどんな取り組みをされているのでしょうか。
無事に特許権を取得できた後もそれがゴールではなく、「この機能について、こういう観点で特許権が取れている」という情報を事業部門のキーパーソンに積極的にインプットしています。このようなインプットがないと、強い特許権の存在が事業部門に浸透せず、結果、特許権を積極的に活用する風土が損なわれてしまうからです。
ソフトバンクが開発したアプリ「WorkOffice+」
「実施報奨金制度」を通じて、特許権を事業部門に周知
特許権を取得したアイデアの発明者に対して、何か報酬制度があったりするのでしょうか?
特許の出願時や、出願した特許が登録た際に、発明者に報奨金が支払われる仕組みを設けています。これに加えて、ソフトバンクで特長的な報奨金制度として用意しているのが「実施報奨金」です。これは、特許を取得した発明が自社の事業に実装されている場合に発明者に報奨金が支払われる仕組みで、発明者は報奨金を受け取ることができるため、自分の発明がどこかの事業に実装されていないか調べてみようというモチベーションが働きます。
また、発明者が自己申告を行い、事業部門が審査を行うため、各事業の現場担当者に取得済みの特許権を認識してもらうことにもつながるのです。
発明者の所属部門や知的財産部以外に、事業部門も審査に関わるのですか?
そこがポイントなのです。前提として、発明が事業化されるまでには数年単位の年月がかかることもよくあり、事業が花開いた頃には、発明者が所属している部門と、その発明を用いて事業を実施している部門とが異なっていることも珍しくありません。発明者所属部門だけでなく事業部門のキーパーソンに特許権を見てもらうことで、特許権の存在が事業部門に自然にインプットされるのです。こうして、発明者とその発明を実装する事業の現場がつながります。
たしかに、発明者にもメリットがあるので双方にとってWin-Winな仕組みですね!
社員の優れた発明を表彰する「特許賞」を新設
2022年に新設されたソフトバンク社内の表彰制度「SoftBank Award 特許賞」について教えてください。
「SoftBank Award 特許賞」は、ソフトバンク社員の優れた発明を表彰し、会社全体で独創性の高い優れた発明を生み出す風土を作り出すとともに、知的財産の活用を促進することを目的として、2022年度に新設しました。
エントリーの過程で、発明者と事業部門間でコミュニケーションが生まれ、事業貢献できる特許権の存在が事業部門に自然にインプットされる仕組みにしています。
さらに、本部長や役員による審査を経て、トップ3の案件については全社で表彰されます。エントリーから最終的な表彰に至るまでの過程で、特許権がさまざまな方の目に触れ、その存在が自然に周知される。そんな戦略的な設計にしています。
審査ではどのようなことが重視されるのでしょうか?
特許権が現在または将来の事業に資するものであるかどうかが重要な基準です。発明自体の技術的な観点の評価に加えて、取得できた特許権について法的な観点からの評価も表彰の基準に含めています。
法的観点からもしっかり保護されている特許権だからこそ、ソフトバンクの独自性を自信を持って社外にアピールすることができます。また、少し目線を変えると、HAPS(High Altitude Platform Station)やコネクテッドカーなど研究開発に注力している領域において技術開発の成果を特許権として漏れなく保護しているからこそ、その技術を安心して社外に開示することができ、オープンイノベーションにつなげることができます。
ソフトバンクでは「Beyond Carrier」成長戦略を掲げて事業を多角的に展開していますが、特許権の取得・保護はどのような貢献をしていくのかお考えを聞かせてください。
Beyond Carrier戦略では、通信キャリアの枠を超え、ファイナンスやEC、DXなど情報・テクノロジー領域のさまざまな新たな分野でビジネスを切り開こうとしていますので、チャンスがたくさんあります。時には、競合他社が既に多くの特許権を取得している領域にビジネスチャンスを見いだして、後発で参入していくような場合もあるでしょうし、新規事業においては他にはない独自性を強みとして事業を展開していくこともあります。そう考えると、やはりこれまで以上に知的財産権の利活用の重要性が増してくると考えます。これまでお話してきたように、事業部門に対して特許権の周知を行う活動は、私たちの活動の要になりますので、今後も力を入れていきたいです。
ソフトバンクの知的財産・
ブランドの保護への取り組み
(掲載日:2024年3月11日)
文:ソフトバンクニュース編集部
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